私達が屋上に入って、しばし周りを見回していると、人影が視界を掠めた。急いでそちらへ向かったら、そこには私達の追い求めた彼と彼女の姿があった。
ミツ君は志摩子さんを、やけに真面目な顔で射抜くように見つめている。志摩子さんはというと逆に呆然とした風に表情を落とし、ミツ君を見下ろしていた。油のような西日が二人の陰影を深めている。私達に気付くと、二人はこちらへ顔を向けた。表情を全く変えていない。志摩子さんが鳴滝殿、美佐殿、と呟いて、沈黙が訪れた。
しばらくの後、志摩子さんが一歩前に出て頭を下げた。さらさらと滑らかに髪の毛が風に舞う。
「……突然、飛び出してしまいまして、申し訳ございません」
顔を上げた彼女の顔は痛ましい。心の底から私達に謝罪をしているとわかるのだけど、本当にそれだけなんだろうか。二人の間に、何かあったのかもしれない。
「ですが、もう……」
「話はまだ終わっておらんぞ志摩子」
志摩子さんの声を打ち消したミツ君の声は、まるで刃物を突き付けているようだった。それも、脅し半分冗談半分といった風では無く、本気で命を取ろうかどうか迷っているような――それくらいの真剣さだった。今日、私が怒られた時よりも何倍も重く、と言うよりは辛い表情を帯びた声だ。
志摩子さんは沈黙したまま、彼の方を向いた。私と鳴滝君の前で、二人は向き合う形となる。
二人が何の話をしていたかは知らないけれど、私達は、その話に引き込まれた。
「志摩子。お前は……いくら強くっても、男ではない。女だ。
いや、女だからというだけでこんなことを言うておるのではない。お前は――左近の大切な大切な娘で、わしにとってだって、大切な存在じゃ。妻や、恋人とはまた違うが、大事で、愛しい。これは本当じゃ。
だが、わしは左近を、死なせた。あいつが殺されたばっかりに、お前は戦場に出ようとしておる。
……死のうと、しておる。
左近が死ななければ――」
ふるふると、首を振るミツ君。そうでなくても、体は小刻みに震えていた。
「わしが失敗しなければ、お前は戦に出るようなことにはならなかったのじゃ!
全部、全部わしが悪いんじゃ!」
泣くように、彼は叫ぶ。
「お前には――別の生き方を選んでおれば、お前には沢山の幸せがあったはずじゃ!
例えば、平凡なところへ嫁にでも行って安らかに暮らしておれば、自分の子供達と今日のように、どこかの祭を楽しめただろう?
そう……そうじゃろ? 楽しめたに違いないのじゃ!」
ぎゅっと彼は拳を握る。落下していく太陽光が、力み過ぎて白ばんだ拳を照らす。