「私は――島左近志摩子は。
あなたと――三成様と、死にとうございます」
ミツ君はただ彼女を、目を丸くして見つめた。何か言おうと、口を少し開いたまま、だけど何も出来ずにいた。少しずつ、彼は震えていく。寒気がしているんじゃない。
「ふふ……義父上と同じように、私もあなたのその厄介な性分に、
単純に惚れてしまっただけかもしれませんね」
本当に、困ったものです、と彼女は肩を竦めた。瞬間、その胸にミツ君は飛び込み、彼女を抱きしめた。そして彼女と再会した時のように顔を埋めた。呻くようなか細い声がどこかでする。きっと彼だ。彼が、泣いている。よしよしと言うように志摩子さんは彼を暖かく包み込む。
それを見る私も、きっと鳴滝君にも、暖かな気持ちが込み上げてくる。
昔も今も変わらない、人の心に備えられている感情のひとかけら。
……それは愛だろうか、絆だろうか、優しさだろうか。
人と人を繋ぎ、優しく巻きつく、眩しい糸のようなもの。
やがて顔を上げたミツ君は嗚咽が落ち着くまでじっとしていたが、くぐもった声を出してこう言うのだ。
「わしは、お前や左近や吉継の言うように、認めたくないけど馬鹿じゃ。だが――
志摩子、お前も……。
お前も相当、馬鹿じゃな――。
こんな、こんな奴と死にたいなんて」
「殿に関わると、いやでも馬鹿になってしまうんですよ。殿が馬鹿ですから」
ご自分でもよくわかっているようで安心しました、と本気か冗談かわからないことを呟きながら、また志摩子さんは微笑した。
「でもですね、それも、悪くないですよ」
それにあえて名前をつけるなら――幸せ、が一番しっくりきている。そう思った。