「……この人形は、志摩子が貰いましょう」
「……み?」
「この人形がこちらにあれば、少しでも士気が上がるかも知れませんからね。他愛もないおまじない、願掛けですよ」
「……そう、じゃな」
 じゃな、とようやくミツは笑った。
「鬼の左近に握らせれば、我らの勝利は間違いないのじゃ。な」
 はい、と志摩子さんもようやく微笑んだ。俺も音宮さんもつられて微笑んだ。微笑むだけで会話がないのはぎこちないと俺は自然に料金を払い、銃を持った。そして訊く。
「音宮さん。何、欲しい?」
 まさか自分に話が飛ぶとは思っていなかったのか、落ち着いた微笑にさっと赤が射す。俺も突然だったかなと反省しつつ、その様子に可愛さを感じてしまっている。何だかなあ、と苦笑した。
「あ、あの……私」
 何々? とわくわくしながら彼女の返事を待つ。ごくんと音宮さんは息をのんで言った。


「私、鳴滝君のくれるものなら何だっていい」


 え……と、欠片程度の声しか出ない。言葉の代わり喉の奥まで溢れて来たのは、嬉しさだった。思わず銃を落としてしまいそうになるほど脱力する。そのまま空まで、舞い上がれるかもしれない。係の子が何か言っているような気がしたが、気にしない。
「わ、わかった! よおっし!」
 返事をしていないことに気付いて口を開いたはいいものの、全然気の利いた事が言えなかった。恥ずかしいけれど、それさえも彼女に捧げる何かになる気がして、全く問題ない。
「みーっ! わしはあの中段にある置物が気になるのじゃ! ナルヒコ任せた!」
「って何でだよ!」
 さっきまでのことは無かったかのように俺に普通にじゃれついてくるミツ。それを笑う、まだ赤い顔のままの音宮さんと、苦笑する志摩子さん。本当はもう、文化祭の時間も押し迫っているのだが、とにかく嬉しさの余り――俺はいつまでもこの時間が続けばいい、そう願った。

   4
11−1へ続く

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