第二幕も好評だった。今度はまたまた定番の人体切断手品で、ミツは当然、これには志摩子さんも驚いていて、「この術を覚えれば何かに使えるかもしれませんね」とかなり本気の顔で言うからこっちまで驚いた。架空の物語に登場する魔法のような手品の数々には、やはり音宮さんは目を見張って、何も言えないくらい胸が一杯になっていたようだった。彼女のそうした横顔を、手品の合間合間に、見つめた。その回数の、実に多いこと……なるほど、確かにミツみたいな子供にも、俺が彼女のことを好きだってばれてしまうわけだ。小池田はもしかしたら全部、知っていたかもしれない。彼女と出逢うきっかけになった南堂も。
 学内の展示をいろいろ巡りながら、そういえば後輩から射的を宣伝されていたことを思い出す。タイミングのいいことに、ちょうどすぐそこの教室で行われていたからラッキーとばかりに俺達は暖簾をくぐった。縁日よろしく、様々な景品が手作りの台に並んでいて、今まさに誰かが景品を狙い撃ちし、見事獲得していた。
「み!」
 ぼけっと景品の数々を眺めていたミツがいきなり甲高い声を上げた。それは怒声に似ていた。
「志摩子! 一番上! てっぺんを見るのじゃ!」
「一番上……ああ」
 タヌキの人形ですね、と志摩子さんは何故か、苦笑した。たしかに、景品が並ぶ棚の一番のそれも真ん中に、人形劇で使われそうなタヌキのぬいぐるみが置いてある。ぬいぐるみと言うよりはマスコットで、上に位置しているのに加え他のものより小さくて、狙いにくそうだった。
「そうじゃタヌキじゃ! にっくきあいつじゃ! ああ、見ているだけで腹が立つのじゃ! みいい! わしが今すぐ撃ち落としてくれようぞ!」
 どんどん、と地団駄を踏んでひどくみっともない。それは今に始まった話ではないが、何故か今回ミツは異常に殺気立っている。その勢いに呑まれて、鉄砲を用意せい! と威圧的に命令された俺はやや焦って付き合う。料金を払い、銃を持たせたが、小さなミツにはいくらか重く、バランスが取りづらそうだった。
 五発撃ったが、全然届かないし、かすりもしない。残念賞の棒状のスナック菓子を貰って、その時は少し嬉しそうだったが、すぐ耳をしょげさせた。
「みう……。こんな子供の姿でいるからいけんのじゃ。元の大きさに戻れば……」
 久々に頭にひっかかる言葉が悔しそうにミツから漏れた。――かつて俺は、ミツは伸縮自在の人間なのか、とあまりに馬鹿なことを想像した。そう考えたのは志摩子さんが「元の姿に戻れば」と言ったからである。元の大きさ……? と音宮さんも何か思い当たる節でもあるのか、首を傾げてはいるものの、何か考えている様子だ。
「殿」
 一喝、という調子で志摩子さんは言う。
「今、元のお姿に戻られては、鳴滝殿も美佐殿も周りの方々も、先ほどの手品のように驚いてしまいますでしょう。……何しろ、あなたのそれは偽物ではなく本物なのですからね……我慢なさいませ。そもそも、あんな人形に本気になる必要もないでしょうに」
「しかしな……」
 スナック菓子を食べながら、唇をタコのように突き出して、不満を露わにした。
「志摩子があのタヌキめを撃ち落として差し上げましょう。それではご不満ですか?」
「まことか?」
 さすが志摩子なのじゃ、とまたミツは抱きついた。すり寄ってくる猫を撫でるように彼の髪を撫で、志摩子さんは銃を受け取る。しかしタヌキにこだわり過ぎのような気もするのだけど。他にも色々な動物や子供受けしそうな景品はあるのに。
「とは言ったものの、私は、鉄砲がそこまで得意ではないのですが……」
「またそんなこと言って……さっきの迷路みたいに、すぐ取れちゃいますよ」
 音宮さんは固い口調をくだいて志摩子さんを応援した。さっき二人で休憩している間に打ち解けたのだろう。

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