「すいませーん、総務の人ですよねー」


 と危うく意識を飛ばしかけた時にお呼びがかかる。応対してみると一年生の女子で、模擬店管理のことについて訊きたいと言う。出来るだけ丁寧に生徒会の担当部署を教え、見送った。いい笑顔で去っていく。一年生だし初めての模擬店なのだろうか。見た感じ清山に慣れてる風には見えなかったので、高等部からの入学だろう。中等部持ちあがり組に負けず、責任感持って仕事に取り組んでいるんだろうな。
 ああ、そうだ。俺もここでうだうだやっている場合じゃない――と、めきめき心が回復していく様が体全体でわかった。音宮さんを探しに行こう、そして一緒に回ろうと誘うんだ――と踵を返し、真っ先にそれが目に入る。


 前方に、見慣れない制服を着た女性がいた。


 一目見て、身長高いな、とこっそり呟いた。周りの男性と同じくらいか少し高い。女性であれだけあれば大したものだろう。腰まで長く伸びた、しかし量はさほど多くない髪。踝あたりまでの長いスカートは、今の世ではもはや見られないんじゃないだろうか。少なくとも市内であんな制服は見たこと無いが、都会のお嬢様学校とかならあるかもしれない。女性は周りをきょろきょろと、誰かを探すように見回していた。そしてこちらを、向く。


 息をのんだ。


 遠くからでもわかる、知的に輝く切れ長の瞳。健康的に美しい肌、豊満な胸。唇は薔薇の花弁のようで、右手に掲げるのは、竹刀袋のようなもの。時代錯誤なセーラー服さえ着ていなければ、今すぐトップモデルで日本を、いや世界を股にかけそうな美女だった。
 ふ、と、風に揺れる花のように彼女は微笑んでこちらに向かってくる。俺は射すくめられた獲物のように動けなかった。あんな美人に微笑まれたら、いくら音宮さんを想っていても悲しいかな男なので、動悸がしないわけがない。
「この建物に詳しい方と、お見受けしました」
 凛とした、芸術品の刀のようなきらめきを持つ声、と形容したい。何も言えずただ頷く。少し時代がかった口調だな――そう思った次の瞬間だった。




「私の主君を、見かけなかったでしょうか?」




 質問の意図が掴めず、俺はその謎の美女の前でただ、首を傾げた。

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