「おい、どうした」
スーちゃん、と呟いた彼女が、スピカを見上げようとしたその時だった。
「御一行様! 里見家よりの、急使で御座いますっ」
耳慣れない、かつ何かに逼迫された声が伝わる。何事ですか、とその使者に太望が応対した。スピカがオーレが、そしてカーレンが、霊感や第六感といったものが優れているだけ、強く感じているだろう不吉が、形をもって顕現しようとしている。
「――花依姫が」
使者の言葉にはっとシュリが反応する。誰よりも早かった。
「花依、花依がどうかしたの!」
一行はその使者の緊急の色を持つ言葉達にただ耳を傾かせた。彼が語った内容は次のようなものである。
――十一個の珠を置いて華北へ出発した日から、花依は女の怨霊に日夜悩まされ体力が衰えていった。祈祷や治療を行うものの、良くなる気配は一向に見えなかったという。
そして数日後、花依は叫び声を上げて城から姿を消したという。
「珠は――全て無くなっていたのです」
スピカ達は知っている。珠は空間を超えて華北にいた十一人の手元に戻ってきたのだ。
「同じ折、シリウス殿の辰川家や、堀内、杉倉が守っておりました館山城が――とても人間の仕業とは思えない力によって奪われてしまったのです」
襲い、奪い、そして戦いを仕掛けてきたのは――かつて退治し、安房を追放された蟇田素藤だという。
「現在、殿が戦場へ出向いております。御一行がご到着されたら、まず城ではなく本陣へと――」
これにて失礼いたします、と使者は挨拶もそこそこにして一目散に、おそらくは戦場へと帰っていった。その所為で風が起こる。冷たく、体に纏わりつくような冬の風だ。
「……あたしの」
シュリはその場に立て膝をつく。だらりと、項垂れる肩が少し震えていた。
「あたしの所為だ」
「シュリさん……」
「あたしが変に意地なんか張ってたから、花依が……」
容易に涙を流そうとしないシュリの手が、その濡れていく右頬を撫でる。
こうしている間にも、花依はどこの誰だかわからない男に身の危険を感じている、最悪凌辱が始まっているというのに、とシュリは下唇を噛む。しかし涙は止まらない。
「だったら、早く行こう、シュリさん!」
シュリの前に立つのは、信乃である。彼も、その整った顔に静かな憤怒を見せている。