喜備は首をもたげながら、途方に暮れていた。
 元直少年の言う通り、亮の家らしきところにやってきたのだが、その家、いや「屋敷」は、喜備の想像を遥かに超越するものだった。喜備の家いくつに相当するのだろう? と空しい想像をしてしまうほど――豪邸だった。
「でっかー……い……」
 首をもたげているのは、門が高いためだ。小学生どころか、大人でさえもこの門、そしてそれと同じくらいの高さの塀を越えることはなかなか、難しいに違いない。
 屋敷は門の格子が作る隙間から垣間見える。門から屋敷の扉まで、少なくとも百メートル以上離れている。そして幅の広さと豊かな緑から広大な庭が広がっていることは、容易に予想できる。勿論門の前、そして目のつく辺りは掃除が行き届いており、そこ一帯の道は冬のどんよりした空とは打って変わって、綺麗さっぱりしている。
 喜備は首をかしげるようにして視界を動かすと、巨大な門に比べてどこか貧相に見えるインターフォンが見つかった。押すか押すまいか迷う。人差し指を立てたまま、硬直してしまう。指は行くあてもなく中空でぼうっとしている。こんなところでいかにもピンポンダッシュをしそうな様子で止まっていたら、不審者どころの騒ぎではないのを段々わかってきて、喜備は指を下げた。
「ヤクザとかじゃないよね? まさか」
 テレビドラマや映画の任侠ものでは、権力者がこのような豪邸に住んでいることはままある例だった。亮が実は極道の血筋を受け継ぐものだったとしたら――と喜備は血の気が面白いほどさっと引いていくのを感じる。とんだ友達を持ってしまった。
 喜備は首を振る。こんなことを思ったら、またあの声が苦しみを伴って聞こえてくる。
「そんなんじゃない……と思おう、うん」
 もしヤクザや暴力団だとすれば、美羽達が知っていても不思議ではない。裏社会の情報や噂話というのは、思ったよりも広範囲に浸透しているものだ。御法という苗字でピンときていないということは、そういった家ではない。
 喜備はその日は引き上げることにした。とぼとぼと帰り道を行くと、高価そうな黒塗りの車とすれ違って、その車は吸い寄せられるように御法家の車庫の方へ向って行った。
 とにかく、とんでもなくお金持ちということは、わかった。
 そしてあれだけ広い家に独りということもなさそうなのもわかった。使用人達が沢山いるに違いない。喜備が怖れていたことは最初から無かったのだ。しかし、人数的に大勢いても、どうだろう?
 亮と何度も触れ合ってきた喜備には、愚問過ぎた。

  3
続く
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