「美味しかったよ、あのケーキ」
「ありがとうございます」
「家庭科同好会だからな、遼は」


 目を細めている曹はまるで妹を思いやる兄のようだった。


「へえ。将来はパティシエとか?」
「いえ。私のは趣味で……看護師か保育士になりたいんですよ」
 と言って遼は右手を上げた。パペットの両手が動いている。にこにこしている遼が動かしている。


「わあ、可愛い」
「猫のパペットで、ハル君っていうんです。
 他にも犬とかクマとか、ウサギとかパンダとかキツネとかタヌキとか作って」


 操の方を向いて言いかけている遼の肩を乱暴に掴んだ曹の目はらんらんと輝くいたずら小僧のそれだった。そして間をおかずにハル君というパペットを奪い取った。


「ちょっと! 曹さん喋ってるときに!」
「いいから見とけ」


 曹はくすくす密かに笑っていた。遼はお腹でもこわしたようにうずくまったままさっきから動かなかった。しかも小刻みに震えているので操は心配して声をかけ背中を優しくたたく。


「ね、遼ちゃん大丈夫?」
「……ええ」


 了解の声だと思った。しかし次にくる声は操の鼓膜を突き破る。



「えええんっ!」



 人通りの少ない占い館のそばを通る人が全員唖然として彼女を見た。操は体の芯からびっくりしてしまって体をびくんと震わせて彼女と距離を取った。自分が泣かせたと思われたらやっぱり嫌だ――そう、遼は泣き出したのだ。

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