またある日のこと、繁華街は下校途中の高校生の姿が目立った。
気がつけば七月も中旬だった。高校は期末テストが終わった為早めの下校か、もしくは終業式で学校自体が終わって夏休みに入ったためかもしれない、操の目の前を甲高い声をして化粧をした、全身が若さできらきらしている女子高生が多く通り過ぎていく。
自分も楽しくテスト後に街を歩いていた時代があり、それがつい最近あったものだったと思い至る。そして、人間関係に支障が出てしまった操にとって、その時代の存在を疑うほど速く過ぎ去ってしまったものであることに気がつく。操は時の流れの捉えがたい速さと、うっかり思い出してしまった、あの独特の寂しさにため息が出そうになったが、こらえた。
曹のもとに行く。曹の子供っぽさや強引さで、別の意味のため息の方を選びたかった。
彼の目の前にはいつも通り「友達」が座っていた。今日は女子高生だった。荀やカフカと同じ三国高校の制服だった。白いブラウスにスカート、ハイソックスにローファーとそれらの要素だけ見れば今街に溢れている女子高生となんら変わりない。黒髪が肩甲骨辺りまでの長さであるのも、いろいろな髪型の人が溢れる街ではそんなに珍しい髪型ではない。
ただおかしな部分は彼女の右手には人形劇で使われるようなパペットが嵌められているのである。猫の、薄い黄色のぬいぐるみだろうか。操は近くによって確認してみた。
「こんにちは」
曹と彼女は他の友達と何ら変わりなく談笑していた。そして曹はいつものように笑顔で操に挨拶する。女子高生も操に顔を向ける。街にいて遊んでいるような顔の女子高生ではない、荀やカフカのように利発な目をして、顔立ちもきりりと引き締まっている。何か、委員長や生徒会でもやっていそうな子だなあと操は思った。
「はじめまして。あなたが鷲羽操さんですか?」
そうですと操は返す。声も大人しい感じ、しかしはっきりとした声量なので彼女は典型的な優等生タイプだなと操は認識してしまう。
「はじめまして。文月遼です」
はるか、ハルカ、と操は心の中で繰り返す。そこで、彼女の名前が初めて出た――すなわち曹と初めて出逢った時のことを思い出す。
「ああ! ケーキの」
「そう。お前よく覚えてたな」
そしてケーキを食べかけているときに曹に無理やり外に連れ出されたことを思い出し変に腹が立ってきた。しかしそれは抑えて、その場に伊予が現れたのだなあと一ヶ月前のことをしみじみと思い出す。まだ一ヶ月しか経っていないのに、振り返ることが多いのはきっと曹がいるからだろう。