空色読書





 屋上への階段をへろへろ登りながら、私は考えた。――似たような書きだしの小説があったような気がする。まあ、屋上に上がったら訊こう。


 考えたことはこうだ。群れることは好きじゃない、と。


 何、別に強がりでも何でもない。むしろ群れるのは推奨されるべきだろう。
 安心できる領域を作り確保するのは、自分と他者のみの厳酷な社会では必要ないとは言えたものじゃない。言ったが最後、放りだされるまで。


 私が好きじゃないのは、群れて、自分らのコロニーから外れている人物を揶揄する、けなす、悪口を言う、陰口を叩く、嘲笑する――それらを鑿にして、自分という存在・その縄張の正当性を誇らしげに謳いながら掘り上げる行為だ。その対象が知人であったり、面識があったりする人の場合や、自分が対象であれば尚更――いや、全く知らない人のことでも、聞いていて気分が良くなるものではないだろう。
 柳眉を顰め、口は不満げに突き出され、煮え切らない不快の想いは獣が唸るように声帯を震わせる。そうやって怒りと不愉快をやりすごす。対処法とはいえ、そういうのも、好きじゃない。


 つまりは――嫌なことが無ければいいのだが、生憎とそういう構造では世界は破綻する。
 ここは、自分達だけが善と思い込むことが嫌なのだと、主張するだけにしておこう。


 教室では、廊下では、出来ない主張だ。――不思議と誰もいない北校舎の階段は、私の足音だけがいやに大きく響く。


 ……が、私のそれらの思考が、全て逃げであることは否定しない。


 弱者の論法に過ぎない。結局は閉じたままの口。
 言わなければ何も始まらないのに、始めたくないから、遠くから、傷つかない場所から私は敵を攻撃する。それは想像と妄想の世界に過ぎない。
 そこが弱い。敵だって作りもの。私の舌鋒も作りもの。
 しかも私の逆枕詞はいつだって「かもしれない」「だろう」――予防線をトラップの如く文脈のあちこちに設けて、ますます私は弱かった。


 馬鹿だなあ。


 と呆れながらも最近の悩みは「個と群れ」だから、しばらくこの論は頭の中で催眠効果を持って、ある種のリズムすら伴いながら私を強固にしていくだろう。
 本当は弱くなっていくのにねと、笑う。いや、嘲笑う。

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