「ぼく、ぼくはあ……まや姉ちゃんのこと、好きなんだあ」
鼻水が出るとべたべたして嫌いだ。でも僕は鼻をかむのが上手くないし、いつもほったらかしにしちゃう。だから泣いている時ぼくは泣きやまない赤ちゃんみたいにめちゃくちゃひどい顔になってるんだろうなあって思う。麻耶姉も、きっと嫌いなんだろう。こんな僕の顔。
突然、頭に暖かいものがのった。何だろうと目を開くと、麻耶姉の顔がすぐ近くにあって、麻耶姉の手のひらが僕の頭にかぶさっているんだと気付く。
麻耶姉はすごく綺麗な顔をしていた。……気付いたことがもう一つある。
麻耶姉の顔は、かっこよくて冷たく見える時もあるけど本当は、とても優しいものなんだ。あったかいんだ。
「知ってるよ」
麻耶姉は笑った。ぼくは、こんなに優しくて、まるでお母さんみたいな麻耶姉の顔を初めて見た。もっともっと見たいから、泣くことをやめた。そしたら頭のてっぺんも心もすごくあったかくなった。
「私のこと好きなこと、ずっとずっと前から、知ってるよ」
そう言ってくれた麻耶姉が、やっぱり好きで好きでたまらなくて、ぼくは結局泣いてしまった。
麻耶姉はぼくの手を取って家に入ろうと言った。
「かぼちゃのクッキー、焼いてるの」
そして内緒話するように、ぼくの耳元でぽつりと、
「きみにあげようと思って焼いてたの」
と言うと、顔を真っ赤にして麻耶姉はもう一回、優しく笑った。
(了)