知ってるよ。


 十月は暇な月だった。マラソン大会は九月にあったし、写生コンクールも九月だった。文化祭は十一月にあるし、合唱コンクールだって十一月だった。十月は、どこのクラスもその準備、準備で忙しい。だけど、暇だった。まわりのみんなはダメだって言われてるマンガの貸し借りとか、ゲームの貸し借りとかやってたり、昨日やってたノストラダムスの予言の特集見た? とか言って、何もないこの月を乗り切ろうとしていた。当然ぼくも一緒になって騒いでいた。お姉ちゃんの部屋でハロウィンについて知らなければ、十月はとてもつまらない月で終わっていたって、はっきり言える。


 お姉ちゃんは英語クラブに入っていて、英語をちょっとだけだけど喋れて、英語のテストの点数も良くて、CDも外国のやつばっかり買っていたし、英語の本もたくさんあった。成績がよくなるからっていう理由じゃなくてほんとうに英語が好きなんだなあという感じだった。それは、ぼくが麻耶姉のこと本当に好きなのとそっくりだ。
 部屋で遊んでいて、英語がびっしり書かれたプリントにカボチャの絵が描いてあるのを見つけて、きいてみた。
「ねーねーお姉ちゃん、これ何? なんでカボチャなの?」
「それはね、ハロウィンっていう海外のお祭りについての説明文よ」
「はろうぃん?」
「んーあんたにわかるように簡単に言うとね、オバケのかっこして「お菓子をくれなきゃ、いたずらしちゃうぞ」って近所のおうちを練り歩くイベント」
「お菓子もらえるの!」
「そう。毎年十月三十一日にやるのよ」
 大晦日みたいにねと姉ちゃんは澄まし顔で言っていた(姉ちゃんの顔の中で一番好きなのはこういう偉そうな横顔だ)


 十月にもイベントがあるんだ! とぼくはとてもワクワクしていた。今もしている。だって、周りのみんなはいっつも「十月はつまんない」って言ってる。本当は、どうしてかよくわかんないけどお菓子を貰えるお祭りがあるのに、みんな知らないんだ。きっとみんなに教えたら、わあっとやり始めるんだ。学校でもそういうパーティをやるんだ。きっといつか毎年十月はハロウィンだハロウィンだって、騒ぐようになるんだ。とぼくはにやにやしていた。

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