2014.01.26
名前繋がりシリーズ。(そんなシリーズはかつてなかった)

















このため、父の恩人の娘との縁談を断り、
「もうお前の世話はせん」と勘当を言い渡される大輔。

八房からも絶交を言い渡され、
しかも、全てが書かれた手紙を父に送られてしまい、
大輔はその内容を聞いた兄からも見捨てられる。








 大輔は暑い中を馳けないばかりに、急ぎ足に歩いた。日は大輔の頭の上から真直に射下した。
 乾いた埃が、火の粉の様に彼の素足を包んだ。彼はじりじりと焦る心持がした。
「焦る焦る」と歩きながら口の内で云った。
 飯田橋へ来て電車に乗った。電車は真直に走り出した。大輔は車のなかで、
「ああ動く。世の中が動く」と傍の人に聞える様に云った。彼の頭は電車の速力を以て回転し出した。
 回転するに従って火の様に焙って来た。これで半日乗り続けたら焼き尽す事が出来るだろうと思った。

 忽赤い郵便筒が眼に付いた。するとそのい色が忽ち大輔の頭の中に飛び込んで、くるくると回転し始めた。
 傘屋の看板に、い蝙蝠傘を四つ重ねて高く釣るしてあった。傘の色が、又大輔の頭に飛び込んで、くるくると渦を捲いた。
 四つ角に、大きい真赤な風船玉を売ってるものがあった。電車が急に角を曲るとき、風船玉は追懸て来て、大輔の頭に飛び付いた。
 小包郵便を載せたい車がはっと電車と摺違うとき、又大輔の頭の中に吸い込まれた。

 烟草屋の暖簾がかった。
 売出しの旗もかった。
 電柱がかった。
 ペンキの看板がそれから、それへと続いた。


 仕舞には世の中が真赤になった。


 そうして、大輔の頭を中心としてくるりくるりと焔の息を吹いて回転した。



 大輔は自分の頭が焼け尽きるまで電車に乗って行こうと決心した。









最後のこれ↑がやりたかっただけです。
父の恩人の娘との縁談を断り、ってくだりからすると、むしろ伏姫の方が近いんじゃないかなと思います。

漱石は鏡花と並んで好きな近代作家で拙作のモチーフにもなったりしてます→(吾輩は魔法使い
読み始めたのは遅いんだけど(鏡花もだけど)その漱石読書のさきがけになったのがこの「それから」だったりします。
なお漱石の「それから」を読む、どころか、漱石そのものに興味を持ったきっかけはきら先生の「まっすぐにいこう。」と言うわんこ漫画です。
ラストシーンがとても印象深く不気味だったので、強く覚えていました。

で漱石で一番好きなのは、わりとマイナーなんですけど「彼岸過迄」です。
でも、一回しか読んでないので、「こころ」とか「三四郎」とか「坊っちゃん」とか「吾輩は猫である」みたく
何度も読んだものに比べるとあんまり覚えてなかったりする。一番なのにか。でも好きです。
……でもいろいろ考えてみると、一番好きなのはやっぱ猫かもしれないな……。漱石も書くの楽しかっただろうしな。
そういえば新年明けたら漱石読書が恒例だったのに今年はやってないや。なんか買おうカナー。

漱石は猫の第三章辺りで「正直でさえ払底な世にそれ(同情的態度)を予期するのは、馬琴の小説から志乃や小文吾が抜けだして、向う三軒両隣へ『八犬伝』が引き越した時でなくては、あてにならない無理な注文である」って書いてたりするので、馬琴読んでたんですね、とわかる。当然か。
なお「それから」の本文は青空文庫から引用しました。

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