それだけ




 七月七日は七夕だけど、晴れた試しなんか無い。
 そもそも旧暦の七月七日は来月の八月だ。想いを馳せる星空は、偽りの空だ。
 だから今年も、願いは叶わない。

 笹に括りつけられた、色とりどりの短冊。
 そこに書きこまれた、同様に色とりどりの願い事。
 無病息災。世界平和。なりたいもの。ほしいもの。祈り。想い。願い。
 儚い人間の願望は、宙に浮いたまま廃棄される。
 季節の運行通りに降った雨に、無残にも晒される場合だってままある。
 天空におはす星々は、聞くだけ聞いて、嘲笑って、終えてしまう。
 それは毎年のこと。ありふれた七月の一場面。


 なのに――
 どうして晴れたの。


 二人しかいない天文部は、今年で廃部する。
 私と彼は、一定の距離をあけて並んで歩いた。
 裏山の焼却場を目指していた。
 
 私と彼が持つのは、大きな笹。
 二人の間に天の川のようにそこにある、願いの笹。

 ――笹を燃やすことで、煙に願いをのせて、天の川まで運ぶ。
 ――それが正しい七夕の儀式なんだ。左儀長みたいだよな。
 ――星まで届け、希望の煙。……ってところかな。

 だけど、願いなんて叶うわけ、ないじゃない。
 晴れたところで雨天、曇天時と変わらない。
 星に願いを、なんて、どれだけ効き目があるというの。
 叶わない願いは、どうやったって、叶わない。

 私の、願いは。


 あなたとこの二人だけのこの天文部に、ずっといたい。


 今も、昔も、これから先も。


 ただ、それだけなんだから。


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