湯上りでほかほかになった俺と美禰子と坊っちゃんはそのまままっすぐ家に帰ると言う無粋な真似はせず、ぶらぶら夜の道を歩くことになった。一応ストレイシープのパトロールも兼ねているからいいか、と言葉には出さず三人全員が思っている。
 近くの河川敷に出て、三人それぞれの足音をゆったり気ままに、のんびり鳴らす。
「お風呂上りのコーヒー牛乳っていいものだねえ。フルーツ牛乳もおいしかったあ」
「だな。清さんに買って来てもらって、家でも風呂上りに飲めるようにしておくかな」
「馬鹿だな三四郎、ありゃ銭湯って場所だから美味いんだぜ。家じゃ三割落ちだ」
「ふーん、風呂上りのビールは飲むくせに」
「それとは話が別次元だ」
 銭湯でうっかり口を滑らせてしまったから、正直何を話したものかと思っていた。あの時は誤魔化して入浴を済ませたけど、結局俺がそのまま引きずってしまってぎくしゃくした形になるかと不安でいたのだけど、何も知らない美禰子の明るさと無邪気さに救われた。だからこんな風に楽しく話も出来る。
「あのさ、坊っちゃん」
「何だ美禰子」
「あ、えっとね」
 俺にはそれとなく目線で美禰子が訊いてくる。俺は頷いた。
「実はね、今度皆でどっかに行こっかなあって、考えてたんだ」
 まだ具体的には全然決めてなかったんだけどね、と慌てたように手を振った。なかった? と過去形の部分に首を傾げる坊っちゃん。
「この話しようと思ったらいきなり坊っちゃん、銭湯に行くぞー、なんて言うんだもん」
「そーそー。こっちとしては完全に出鼻挫かれちまったってこと」
 そういうことかと坊っちゃんは頷いた。タイミング悪かったなあと首を掻くけれど俺達に言っているのか自分に言っているのか。
「でもいいんだ。おっきいお風呂嬉しかったし」
「そ、どっか出掛けるのはまた今度でいいかって」
 顔を見合わせてなー、ねー、と合わせる俺と美禰子は兄妹みたいにでも見えたのかそれもいいかもな、と坊っちゃんは微笑んだ。それを見て俺も内心胸を撫で下ろす。どうなるかと思ったけれど、坊っちゃんの機嫌、少しは良くなったみたいだ。
 緩い夜風に吹かれて、散歩を続ける。
「蛍とかいないかなあ」
「田舎ならまだしも街中だぜ。それにまだ春」
「蛍じゃないけど、美禰子」
 と坊っちゃんは自分の鎖骨の辺りを指した。どうやら美禰子が下げているペンダントのことを指しているらしい。見るとそれは朧げに光っていた。外して数秒もしないうちに現れたのは美禰子愛用の杖である。
「久々だな、反応があるの」
 それまでは何もない空間から出し入れしていたのが、外に出た時にストレイシープの反応を逃さないようにとペンダントのように小型にして持ち歩くようになった、と聞いていた。何だかますます魔法少女めいている。
「この近く、か」
「せっかくお風呂入ったところなのにい」
「まあいいだろ」
 風呂の後の運動だ、と坊っちゃんは肩を大きく動かした。そんなのあんのか、と眉を反らしながら、やる気の満ち始める彼に思い出さずにはいられないことがある。
(そう言えば魔法が使いたい、とか言ってたっけな)
 魔法にも煙草やお酒のように中毒症状があるんだろうか。何となくだけど、多分いくらかはあるんだろう。あの時の様子も含めて美禰子に言うべきか、それとも言うまいか。でも逡巡している内に二人は反応を辿って先に行ってしまった。おいてくなよな、と愚痴を零し俺も追いかける。結局その件は保留となった。

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