「わしには少し特殊な力があっての……」
いっひっひと、悪だくみでもするようにいやらしくミツは笑う。
「ななななーんと、少年へと変化することが出来るのじゃ。
ほんとじゃぞー。昼間に見た手品とはわけが違うのじゃ。
ということは勿論、今のわしは本当のわしじゃない、ということじゃ。
……ふふん、あまりの美形っぷりに驚いて肝を潰さんようにな!」
調子に乗って説明をしてくれた。確かにその特殊な力も、物語という幻が与えた、いかにもな代物だ。自信満々に言うので、どんなミツ君が出てくるんでしょうね、と音宮さんも目を輝かせていた。……美形か。もしこれで音宮さんがミツに惚れたりなんかしたら、俺的にも音宮さん的にもミツ的にも悲劇だ。幻想の人物に憧れを抱くなんて……そうなることはないと思いたい。
ミツは目を閉じた。段々と、体の輪郭から光が湧き、体中に広がっていく。うわあ、と目の前に広がる光の幻想にただただ感嘆の声を上げる俺と音宮さん。やがて光の塊となった少年の体は大きくなり――姿が現れる。
シャツと黒い男子用の制服であるスラックスと、高等部のものと似た男子用のベストなど、纏う制服が変わっている――しかし見かけない制服だ。これもまた何年も前のものなのか。
つぶらな瞳は知的な涼しい目となり、どこか気障ったらしい顔つきに変化する。髪型はそのままだ。
「どうじゃ!」
むん、とミツは威張る。声は前より少し落ち着いているが未だ高いトーンである。
しかし自信満々なところ悪いが、俺は少々肩すかしをくらった。
「……小ささが、変わんねーじゃん」
残念なことにそう、髪型だけではなく、身長がほんの少ししか伸びてないのだ。実際俺と同じくらいか、美形と言うのだからもっと高いかと思っていたのにがっかりだった。が、先の不安もあったため安堵もしている。ミツは案の定痛いところを突かれたらしくみうっ! と怯み、耳髪が逆立った。
「ほんと……私と、同じか、私よりちょっと大きいくらいかなあ」
「みみみ、美佐までそんな、容赦もなく!」
ごめんね、と音宮さんは残酷にもまったく変わらない態度でくすくす笑い、俺はやーい、と少年時と同じように見下ろし、笑ってみせた。その度髪を逆立てたミツはみいみいうるさく、やっぱり何も変わってはいないと思い知る。
「まったく、情のない奴らじゃ、のう志摩子」
くるりとミツは志摩子さんの方を振り返る。そういえば志摩子さん、今までずっと黙ったままだったが……。志摩子? とミツが心配そうに言うものだから俺達も彼女に注目した。
彼女はただ俯いて、体を少し、震わせていた。