それに、と俺は大げさすぎるくらいに志摩子さんとミツの方を向いて言う。二人は自分達が空想の産物であることを明かした所為か少し落ち込んでいるようだった。それを俺は吹き飛ばす。


「志摩子さんは「夢」だ「つくりもの」だなんて言うけど、
 俺達は今日一日ずっと、今もこうして志摩子さん達と喋っているし、思い出がある。
 志摩子さんは志摩子さん以外の何者でもないし、ミツはミツ以外の何者でもないんだ、
「こっちの世界」で、二人とも生きた存在になったんだ。
 いや、「あっちの世界」でもそうなんだよ、むしろ尚更!


 夢なんかじゃないし、幻でもないんだ!」


 盛り上げる俺に応ずるように、しょげ返っていたミツはみい、と笑った。
「勿論じゃ! わしは天下の五奉行・石田治部少輔三成であるぞ!」
「今は五奉行ではないでしょう?」
 むうと不満そうに志摩子さんを見上げ、それでも城主じゃし、と威張るミツ。
「ですが、鳴滝殿。ありがとうございます。
 現実と幻は、同じ世では最初から相容れない事象です。
 ですから私達は戻りますし、もう逢うこともございませんでしょう。
 ……何故今日に限ってこんな天の律が乱れたようなことになったのかは、神仏のみぞ知ることですが……」
 一瞬彼女の表情は翳りを見せたが、それを吹っ切るように微笑してくれた。
「私も左近の娘、志摩子という、確かな存在だと、生きているものだと仰ってくれた、
 鳴滝殿の勿体ないお言葉、忘れません」


 一つ一つ丁寧に言葉を告げ、志摩子さんは頭を恭しく下げた。俺も音宮さんも静々と頭を下げた。もう一度向き合った時が最後の時だと思うと、急に寂しさや空しさに身が縛られる感じがする。
 存外、二人は妙にさっぱりした表情を浮かべていた。みっ、とミツの耳髪が動く。今日何度も見てきた所作だが、それなんかいかにも空想だなあ、としみじみしてしまう。


「そうじゃ志摩子! せっかくじゃ、帰る前にわしの本当の姿を見せてやろうぞ!」
「お戻りになられるのですか?
 ……まあ今更のことです、何が起こってもお二人方はもはや動じないと思いますから、止めはしませんけれど」


 やったのじゃ、と急にほくほく頬を緩ませるミツは二、三歩前に出てきてこほんと咳払いをした。
「あ、本当の姿って――」
 元に戻った時は――と志摩子さんがかつてミツの背を示してくれたことを思い出す。要領を得られないのか音宮さんはただきょとんとした顔をしている。説明してやりたいが俺も本当はどういう変化かわからないのだった。
 とりあえず、見ればわかる。

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