「ひゃ!」
一気に、全身に赤の染料が流れた。あまりに驚いて私は固まって動けない。
「俺が、俺が好きなのは……その……」
そして私を、おずおずと見る。
彼の頬も、熱でもあるかのように赤いのは、見間違えじゃない。
「……わかったよ、わかってるよ」
見せつけるなやい、と笹興君はぼやく。
「ナルヒコ。屋上の、お前に任せた。昼のあの事件のやつはチャラにしてやっからよ」
「……ありがとう」
ぎゅっと、鳴滝君は手の繋がりを強くしてきた。私もそれに答えようと、当たり前のように握り返した。ずっと俯いたままなのは、赤過ぎてまるで茹でたこのようになっているのが恥ずかしくてしょうがないからだ。
だけど何だろう。すごく、愛しくて嬉しい。
私達は階段まで手を繋いで駆けた。だけど、帰るお客さんや後片付けに忙しく駆け回る生徒にぶつかって、その手は解かれる。更に後夜祭の準備に行くのだろう、一気に大勢の人が押し寄せて鳴滝君と離れ離れになりそうだった。
「音宮さん!」
彼はやはり、当たり前のように私に手を差し伸べてくれた。
――それは、演劇部で本当は孤立していた私にくれた笑顔と同じくらい、輝いて見えた。
私は手を取る。志摩子さんとミツ君みたいに、しっかり繋ぐ。
私は彼が――鳴滝君が好きなのだと、そんな当たり前のことをようやく理解出来た気がした。