「こんにちわー! 戦うヒロイン愛好会の者ですがー! ひとつインタビューをー!」
「正義の味方同好会ですー、一部始終見させていただきましたあ!」
「私立清山防衛隊の者です! この度は私達に代わって悪党を成敗して頂き誠に感謝申し上げます!」
「清山女性地位向上委員会ですが、どうぞ質問に答えて頂ければ」
「清山歌劇団です! どうか我が劇団に力添えを!」
 なんだなんだ! どっと志摩子さんに押し寄せてきたのは俺も名の知らない謎の同好会ばかりで、互いに目を白黒させて口を開いたまま何も言えない。
「えーこちら中継、民間人を巻き込む大惨事になり兼ねなかったストリートファイト同好会の幹部を食い止め、更に後続した悪名高い野戦会をなんと素手で叩きのめしたのはなんとなんと女性! カメラ映りますでしょうか、こちらの高身長の女性です。そして見てくださいこの人だかり、恐怖の走ったこの廊下を華々しい勝利で飾った彼女を讃え、今なお混雑が止まりません! 全く無関係の模擬店までもが客を獲得しようと躍起になり、辺りは美味しそうな匂いまで立ち込めております!」
 これは放送部だろうか。多分人気スポットを生放送で紹介なんかしていたところに居合わせたんだろう。
「見慣れない制服ですが、どちらの高校で?」
「えーお名前は? もしかして県外からのお客様ですか?」
「出身地は? 血液型は? 身長は? 体重は? えー出来ればスリーサイズも!」
 その、とかあの、と、周りにもみくちゃにされる志摩子さんにはかばかしい返事が出来るはずもない。決して志摩子さんは悪くはない、祭に浮かれ悪ノリしている俺達が悪いのだ。
 パシャパシャと思いっきり前面に出てカメラのフラッシュを焚いているどこからどう見てもカメラ小僧な奴に、赤縁眼鏡の子がパンと軽く頭に一発お見舞いしている。
「尾西、いつまで写真撮ってるのよ、その人に迷惑じゃない!」
「ふっふっふ。そこに写真に収めるべき美しい被写体がいれば、迷わずシャッターを押さねばなるまい! それが解らぬとは、お前は所詮二流の人なのだよ!」
「だーもうっ! このお姉さんが強くて美人なのは認めるけどあと一時間足らずで始めなきゃいけないっつってんでしょ! 会場準備が終わってないっつの!」
 よく見るとその赤縁眼鏡の子は音宮さんの友達だった。名前は確か関根だったか……夏期講習で彼女の隣に座っていたはずだ。音宮さんとは違って押しの強そうな子だなとは思っていたが、なるほど見た目通りだった。しかしやはりというか、フラッシュは止まない。
「はーい、救護班通りますー、道開けて開けてー!」
「周りの迷惑になりますので立ち止まらないでくださーい、混雑解除にご協力くださーい」
「はーい生徒会執行部でーす、事後処理しますよー、みんな散って散ってー」
 ようやく救護班や総務が来たようでほっとする。名残惜しそうに、しぶしぶ、志摩子さんを取り囲んでいた者は彼女への質問を諦めていく。志摩子さんは申し訳なさそうに頭を下げた。そんなに自分を責めるような顔はして欲しくなかった。
「えーと総務の者ですけど……あなたですか? こいつらのしちゃった人」
「あ、笹興」
「おうナルヒコじゃん、何してんの」
 ペン回しをしながら笹興は言う。よく街で遊んでいそうな容姿をしながら、この賑やかな騒ぎにさほど興味を持っていない様子だ。こいつとは一年の時同じクラスで、二年から総務に入り、以後付き合いが切れていない友人だ。
「あ、ちょっとな。仕事は変われねえけど」
「ちぇっ。頼もうと思ってたのに。まあいいや。っと、えー、この件についてちょっと話があるんで付き合ってもらいたいんスけど――」
 あ、と俺は零す。迂闊だった。こんなことになった以上、不良連中を鎮圧したとはいえ当事者である志摩子さんも事後処理に連行――というと聞こえは悪いが、されるのは当り前じゃないか。ちらと志摩子さんの顔を見ると、笹興の言に素直に従おうとしている表情だった。
「ちょっと、ちょっと待った笹興!」
「なんじゃらほい?」
「鳴滝殿?」
「あのさ、この人、左近志摩子さんって言うんだけど、大事な友人と逸れて、今俺と探してたところなんだ。というかそもそも清山に来たの初めてで、こんな騒ぎになったのは偶然なんだよ」
「ふんふん、それで?」
「だから、その、見逃してくんないかな!」
 ぱちんっと手を合掌させた。

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