一年と少しの時が流れた。

 

 私は、蝶々への恋心を抱いたまま三年生になり、デザイン系の専門学校へ進学することになった。
 そして今日で、学校生活が終わる。

 

 卒業式だった。

 

 空は真っ青で、雲ひとつない。
 私はまだまだ寒い三月の風が吹く中の校庭を、卒業証書の筒を持ちながらナミと一緒に歩いていた。ナミが校門前で写真を撮ろうといって聞かないからだ。私達の息は白く、温かだった。

 

「羽音ちゃん、その髪飾りいいね! どうして今までつけてこなかったの」

「失くしたくないから」

 

 私は、蝶々の、水色の羽根の蝶の髪飾りをしていた。蝶々と同じ位置につけていた。

私の蝶々への恋心はゆるく燃え続けていた。最初のような激しさは、ないわけではない――きっと彼と再会したときに、また復活すると信じている。子供のように、何の疑いも無く。
 最後のあの日、ひたすら好きという気持ちを信じたように。

 

「ところでナミ。誰に撮ってもらうのよ、写真」

「あーっ、そうだったー! どーしよー、また教室まで戻るのしんどいよう」

 

 私は笑った。ナミは相変わらずで、そして私は相変わらず蝶々が好きなことに、何だかふとおかしくなって笑った。
 変わらないこと。変わらないもの。
 それは時として愚かで、しかし尊いものだった。

「あ、あそこにいる人にとってもーらお。すいませーん!」

「ずうずうしいわねえ」

と、私はナミが行く先を見た。

 見た瞬間、その一瞬だけ、体に電気が走ったような感覚に襲われた。
 ぴん、とピアノの一番高い音が頭に響く。

 

 ナミが行く先には、背の高い男性が立っていた。長髪ではないが、ボブくらいの髪型だった。
 色はよく見かけるような茶色とは少し違う感じの茶色である。振り返る。
 その男性は、髪に何かを付けていた。
 私は目を凝らして見つめた。

 

ピンク色の、蝶々の髪飾りだった。

私の作った、あの髪飾りだった。

 

私は、走った。ほんの短い距離を、ナミを追い越して走った。

段々、私の視界に彼の顔がはっきり浮かんでくる。切れ長の目、長い睫毛、筋の通った鼻、色の薄い肌。

 

嘘じゃないよね。

名前を、呼んでもいい?

 

「蝶々!」

 

しっかりと私を見つめる彼は、私が待ち続けていた奇跡だった。

(了)
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