ものを言わなくなった箱を閉じて鞄の中に入れる。
 私はしばらく余韻に浸りながら空を見ていたが、少し寒気を感じてきたので帰ることにした。




 今まで彼女と会話したことを少しずつ思い出しながら家路を辿る。全てが終わってしまった今となっては、随分な絵空事に思えた。
 けれどあれは確かにあったのだ。たとえ全て幻だったとしても、私が体験したことになんら変わりはないのだ。
 もう箱からは声が聞えない。私自身がどこか劇的に変わったわけでもない。けれど、彼女の言葉は祝福だった。そう思う。


 途中に寄ったコンビニでは花火や海水浴グッズなどが並び、もう次の夏を迎える準備が出来上がっていた。七夕で盛り上がったこともすぐに忘れて、私達は次を生きる。
 天にいる大勢の織姫と彦星が、次の七夕を待つように。


 いつか誰かに、この日のことを語る日は来るんだろうか。


 いや、きっと来るのだろう。彼女がそう保証してくれたし、何より、彼女は私ほど、意地悪ではないのだから。





(了)

      7
novel top

inserted by FC2 system