しかし彼は再び現れた。それは些細な日だった。誕生日やクリスマスなどではない。私が単独で監修したプロジェクトが無事に成功を収め、祝賀会が開かれた、その日だ。
手伝ってくれた人々に私は通り一遍の言葉を述べ、貼りついた笑顔を浮かべた。無論、それがそうと気付かれないものだから、自分の演技も大した域に入っているなと感じた。これに苦笑いを浮かべられるのは、あいつだけだ。取り巻きもきゃいきゃい騒いで会に無駄な華を添えてくれていた。誰も私の本当に気付かない。隠しているから当然だけど、それがどうして、こんなにも寂しいのだろう。
そう思っていた時に、彼は取り巻き連中の輪の中からさっと現れた。あまりに自然で、景色に雰囲気が溶け込んでいたので、今まで姿を見せていなかったことなど、私だけにかかっていた幻覚か呪いのようだった。
彼は、時空間の幅など気にせずとびきりの笑顔を見せて私に花束を贈った。小さな花束だ。さほど高くなさそうなのに、品が良くて色合いもよく香りも新鮮だ。私の好みに驚くほど合ったこれ以上ない贈り物だった。その顔を見て彼は私が気に入ったとわかったのだろう。ますます笑みを浮かべた。それはどうしてか眩しかった。
だが、私はそれを手にとって、どうしたんだというんだろう――しばらく身動きもせず、じっと見つめていたかと思うと、それを殴り捨ててしまったのだ。
周りの人々は驚愕した。口々に悲鳴にも似た声をあげてたちまちそれはざわめきとなった。騒然とした場の空気は密度を増し刺々しくなり私を刺す。あるいは彼を貫く。ごめんなさい、気分が悪いの、と私は言い訳にもならない弱弱しい声で場を突き放し、会場から鉄砲玉のように飛び出した。
周りの騙された人々はその言葉で事足りる。だけど足りない人が一人追いかけてくる。あいつだ。いつもはとろいのに、その足は速く着実に私に迫っている。
やめて! 近寄らないで! もう来ないで! 私は叫んだ。
きっと聞こえているだろう。あいつの耳は誰よりも私の声を拾ってくれる。
私の口汚い偉そうな言葉に隠れた臆病な呟きも、理不尽に攻め続ける中で漏れ出した私の弱音も、全部あいつはきっと、わかっていたのだ。
だからもう来ないで。もう私を好きにならないで。
崩れやすい望みを、もう一度抱かせないで。