しかし人の噂は七十五日。その内止むだろう。私は年不相応に達観したところのある鼻もちならない少女だった為、そう思って日々を過ごすことにした。ところがだ。私の目にはぱっとしないで見えた彼は意外にも優秀な生徒だったらしく、思慕する女子が多いとは言えないまでも、少なくないのだという。
 その内の、彼の幼馴染という少女が――厄介だった。幼馴染という称号が手に余るほど彼に執着していたのだ。私立の名門女子高に行くはずだったが、彼が好きだからと平平凡凡な公立の学校に来てしまった。彼と彼女のクラスは離れたが、彼の時間割も一緒にスケジュール帳に書いておく、お弁当を作ってくる、委員会は一緒、部活は文系の部活だったから一緒に、宿題や委員の仕事も一緒にやるという甲斐甲斐しいが一方的な熱愛ぶりが顕著だった。二人の間を阻むものはなかったが――ここで私という存在がひょっこり現れたのだ。私も相手にしてもとんでもない展開だった。
 彼女は一言で言うならば異常だった。彼の幼馴染として、片想いをしている身としてやっていいことと悪いことがあるのだが、悪いことばかり私にしかけてきた。はっきり言うならばそれはいじめであった。まあ私もある意味異常だ。火に信仰心めいたものを抱いているし、自分で言うのもなんだが仙人のようだったし、いじめの対象に今までならなかったのがおかしい。――彼女は金持ちの、権力者の娘だった。取り巻きが大勢いた。
 しかしいじめと言っても同じクラスにならなかったのが幸い、さほど酷い思いはせずに済んだ。精々下駄箱の靴が無くなっていたり煙草の吸殻が私の机の上にぶちまけられていたり体操着や教科書が汚くなっていたりと、言ってしまえば悪いが幼稚だった。金持ちなら、権力者なら、もっと大局的ないじめを仕掛けるべきだと私はかなり図太い神経で思っていた。


 そう思っていたら――起きてしまった。
 その頃近所で頻繁に不審火が起こっていたのだが、どういう情報操作をしたのか謎だが、それが私の仕業ということになってしまった。
 待ってくれと私は思う。私は確かに火が好きだが、燃え盛る神火の姿を見たいために人様の家に放火する程狂信的ではない。放火や、人を殺すような火は忌むべき炎の姿だ。しかしそんな私の言を皆信じず、状況は深刻なものとなった。火を信仰する私、という妄想を逞しくしたとんでもない話がいくつも飛び交った――。
 いくら暢気でとぼけた私でもさすがにこれは無い。当然、随分前からその男子への想いを私は口にしていない。目で追うことも無い。……そう、無かった。執着も勿論ないのだが――それは幾分か、寂しい想いを、私の中に募らせた。
 誰かを好きだと、自由に想うことも、秘めることも出来ない。居場所もない。
 彼女は満足したのか私への攻撃はぴたりと止んだ。ほっとしたが、私は孤独な学校生活を送らざるを得なくなった。友達も先生もよそよそしい。
 私は独りの帰り道を辿っていた。誰か友達と歩きながら取り留めもない話をしていたのが、もう大分遠い昔のように思える。
 畑では煙が上がっていた。その煙から私は遠く離れていたが、私はその煙が目に沁みたように、泣いていた。
 こんな世界――×××しまえと、内心で泣き叫んだ。

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