「いいんだよ。いつも通りに、きっちりと、とか、そういうこだわってばっかなのに、ちょっとうんざりしてるところだったし」
「そう? じゃあ私から繋いでもいいのね」
 ちょっと照れ臭いなあと赤面しながら彼女は私と指を絡めた。
「冷たいでしょう」
 そう彼女は言うが、どうしてか暖かく感じる。彼女が事前にすり合わせたからだろうか。いや、そんな間に合わせの暖かさでは無かった。ならいつもと違って、彼女から手を繋いだからだろうか。それが正解のように感じるが、どうもそうではない気もする。

 過去に何度も繋いだ手で、何時間も寒さに晒された手なのに、どうしてだろう。今日は、特別暖かく感じた。
 私が少し握り返すと、彼女もまた握り返した。

「行かないの?」
「もう少し、このままでいたい」
 心持ち彼女は目を丸くした。らしくない台詞だっただろうか。だけど本心だ。
 彼女は一つ瞬きをして、穏やかに微笑した。

 これからも出来れば、繋いでいきたいと思う。日常の些細なことにこだわるいつも通りは少し控えめでもいいかと思うけれど、この点に関しては、明日も明後日も、こうやっていつも通り、二人が手を繋いでいければいいと思う。
 この暖かさに、私はそう強く感じ、またそう誓った。

 行こうかと私は傘を広げた。相合傘で、私と彼女はいつも通りの道を進み始める。周りを降る雪は幸せな私達を横目に、街を白く染めるため風に乗っていった。



(了)



    5
小説トップ

inserted by FC2 system