「ごめんね」
呆然とする私の頭に事実としてようやく、打ち込まれた。
ああ、翔ちゃんは私にキスしたんだ。
唇に触れると、ほんの少しだけだけど、しっとり翔ちゃんの唾液で濡れていた。
私も指先から頭のてっぺんまで、夕焼け以上に赤くなっていくのがまるで他人事のように感じられた。
今こそ、と言わんばかりに私の感情の真珠はぽろぽろと、口を飛び出した。
「翔ちゃん――す、す、す……」
「あ……」
翔ちゃんは私と目線を同じくして、困った顔で笑う。色は依然と赤くなったままだ。
好きだと、伝えなくちゃいけないのに、口が舌が、上手く働かない。彼も同じ言葉をきっと伝えようとしている。
そう、自惚れていいんだろうか。
……いいかな。
程なくして、私達の口は、すき、の言葉を結んだ。ぎこちない笑顔を、二人で浮かべながら。
百本の蝋燭が起こすのは、怪だけじゃなくてきっと奇跡もだろう――そう思った。
まだまだ続く夏休みの奇跡の一コマは、これから先、ずっとずっと、夏が終わっても、輝き続ける。
(了)