カーレンが目覚めると、スピカが隣にいることに真っ先に気付いた。しかし、もう眠ってしまっていた。ややぐったりした様子で、その白い腕に顔を載せ、青い髪をさらさら流している。
(……スーちゃん)
彼の顔の前に掌をかざす。吐息のような寝息が優しくカーレンの皮膚を滑った。どこか心地よい寝息の音も確かめると、彼に気付かれないように外に出る。
空はすっかり深夜の帳を島に下ろしていた。星明りがなければ、闇か、はたまた星のない世界になる。絶望の度合いが高いのはどちらだろう。
(お姉ちゃん……)
カーレンには静かに、しかし激しく、マーラとのことが津波のように襲ってきた。時々歩くのをやめ、倒れてしまいたい程の気持ち悪さがカーレンを詰るように、体中に行き渡る。生温かい血が自分の肌を点描していったことや、柔らかい胸を刺した凄惨な不快さが、足取りをふらつかせる。
巫女を始めたばかりの頃だっただろうか。マーラと出逢ったのは。
カーレンにはない美しさと物静かさと知性と――そして妖しさがあった。符合するところは確かに多いが、玉梓の化身とは、今でも――あんなことがあって、何もかも犯される程に恐怖を感じたというのに――思えなかった。いつも突然にやって来ては艶やかに笑い、カーレンの取り留めのない話を最後まできちんと聞いてくれた。ハーツに見つかれば、近付くなと怒られるから、誰もいない浜辺で、そう、惨劇があったあの浜で、二人はいつも過ごしていた。
短い期間だ。合った時間を細かく計算しても長いとは言えないだろう。しかし、カーレンには、世界中の宝石を合わせても足りないくらい、燦然と輝く――かけがえのない、時間だった。
巫女を始めたばかりの頃というと、とカーレンはふと思い立ち止まる。
スピカが傷つき、マーラを殺した、あの悲劇の浜辺に、いつの間にか立っていた。
巫女を始めたばかりの頃。それは――カーレンの母が、亡くなった頃と言い換えてもいいのだ。
(おかあさん……)
カーレンの記憶に、母の面影は、悲しいことだが殆ど無かった。
かわりに浮かぶのは――
(おねえちゃん……)
そうかと、カーレンは悟る。