浜へ帰る



 シュリ達との再会を喜ぶのも束の間、体力の衰えている花依は失神するようにシュリの胸に倒れた。目的も果たしたことだから、一行は陽仁のもとに帰ろうと外に出ていく。花依はシュリが背負っていた。
 しかし、オーレは外に向かうことなく、未だ妙椿と向かい合っているかのように棒立ちだった。その体が、ゆらりと揺れる。どうも、立ち眩みを起こしたらしい。
「ちょっとオーレさん。大丈夫ですか」
 床に膝をつき、頭を重そうに抱える彼のもとへスピカは駆け寄る。信乃と双助も心配そうな顔で戻ってきた。
「大丈夫だよ」
 オーレは、しかし呻くように言う。
「気分が悪いなら、早く殿の元へ行って休みましょう」
 その声からはとても大丈夫とは、誰もが思えない。優しく、双助は労わる。
「そうですよオーレさん。……ここにいるのは、その、あんまり良くないと思う」
 信乃は辺りをちらちら見渡す。妙椿は消え去ったものの、その残り香や気配、瘴気といったものが彼に焦燥を与えていた。
「……いいんだ。大丈夫なんだ」
 そう言うが、オーレは立ち上がろうとしない。スピカは苛立ったように唇を尖らせて、無理矢理彼の肩を担いだ。
「大丈夫だって」
「どこが大丈夫なんですか。口ばっかり」
 オーレはあからさまに眉を顰めているが、特に抵抗しなかった。しぶしぶと言った感じに歩を進めていく。
「そういう強がりは、あんたには似合わないんです」
「そうそう、強がってばっかりは体に悪いです」
 出口の方でカーレンもシュリも微笑して待っていた。
 オーレは顔を伏せた。――自分を見られたくないと、彼はそう思った。








 妙椿が消え去ったのとほぼ同時に、敵方の兵は戦いをやめた。何をしているのかさっぱりわからないといった彼らの様子を見ると、どうも館山城周囲の農民たちが操られていたらしい。戦いはそのままなし崩しに終わってしまい、館山城もすんなり取り戻された。
 花火達が成敗した蟇田素藤は、ニコの珠の力で兵達の操りが解けた途端、一目散に逃げだした。だがしかし、花火達の攻撃を受けた体でそう上手く逃げられるはずもなく――チルチルと李白の力で捕獲された。
 処罰は、以前のような国外追放とはいかないだろう。誰もが命を奪うことになると思っていたが――
「十二人揃い、姉上も復活するかもしれない時に、血を流すのは宜しくない。
 ここは大赦ということで、再び国外追放することにした」
 そんな有難い言葉を言ってのけたのは勿論、陽仁である。一度奴をこてんぱんにした花火と与一はそれでもいいと思ったし、悪者とはいえ秘かに素藤を心配していたニコは自分が救われた気持ちになった。
「さあみんな、よく頑張ってくれた。日も暮れてきたことだ――」
 無事に戦いが終わったことを祝して宴にしようと陽仁が言うやいなやわあっと歓声が響き上がる。操られていた民も重臣も兵達も関係なく、篝火に照らされた笑顔があった。それは誰の目にも、とても暖かいものだった。





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