「敵側の兵をどんなに倒したと思っても、甦ってしまう。そして我々に襲いかかる。ずっとその繰り返しだ。
 ……いかに血気盛んな猛者といえども、何度も繰り返せば疲弊し切って、とてもではないが、決着がつくとは思えない」
 自分がかつて戦場にいたことを思い出すように、目を閉じて、俄かには信じ難い事実を口に出すことで確かに事実として伝えた。
「草の者の情報によると、敵方は二手に分かれているという。
 一つは敵の総大将、蟇田素藤側、そしてもう一つは――謎の尼、だという」
 シリウスは双眸を開く。三十年前のあの日、陽姫と共に対峙した怨霊をこの目で見たのだと、十二人達と目を合わせることで伝える。情報だけでも十分、その怨霊の影が見え隠れしていた。
「不思議な力には姉上の珠で立ち向かうしか、術はあるまいよ。
 援護は、選りすぐりの猛者達が行ってくれるはずだ。――そうだろう!」
 陽仁の大音声に、はいっと何十名もの武士の猛々しい声が、まるで天の声のように返された。頼もしいことこの上ない。
「二手に分かれているなら、こっちも二手に分かれなくてはな」
 ところが花火はその大声とは対照的に小さい声、まるでぼやくように言った。しかし皆それに頷いた。

「でもどっちに花依姫さまはいらっしゃるのかしら?」
「チルちゃんの言う通りじゃな」

 玉梓の化身――と思われる尼のもとにいても心配だが、もともと花依を狙ってきた輩のもとにいると考えるのも、より一層心配が色濃く花火や信乃の体に染まっていく気がした。

「――信乃。シュリ達と尼の方にあたれ」
「え? 花火の方に行ってもいいよ」
 そういう信乃に花火は背を向けて言葉を捨てた。
「俺がいれば十分だ」

 信乃はみるみる嫌な顔をして、何さと同じように背を向けた。――信乃と花火の実力は村雨丸を考慮しても花火の方が上である。信乃が図星を突かれていることを双助はわかっていたので、まあまあと双方を宥めた。
「わたくしも、参ります」
「相変わらずの信乃いじめだなあ、花火」
 李白に続いて与一が花火の後を追う。ならわたしもとチルチルが続き、いつも彼女の後につくニコも、そして太望も花火を追ってしまった。


 そして残った六人が尼のもとへ行かんとする。カーレンは、自分は大丈夫と言い、今もシュリを励ましているがスピカは本当だろうかと、気に揉む。そして、いつもは笑って澄ましているオーレは、病に少し苦しんでいるような、あるいは何かを突き詰めて考えているような、そんな顔をしていた。笑いも余裕も見当たらない。

 何かが起ころうとしているのか。スピカは空を見上げ思う。
 雲行きは依然、怪しい。風が一つ吹いて木々を不安そうに鳴らした。





 2   
プリパレトップ
novel top

inserted by FC2 system