その光景を夢に見ていたのは――たった今その夢から現実に帰還したのは、全身に赤の刻印が走る少女、カーレンだった。
 顔も首筋も髪の毛も腕も足も汗だくであり、呼吸は荒かった。赤い目を、闇の中で見開いて、まるで目が出血しているように見えるだろう。



 あの赤い目から放たれた視線の矢が、カーレンを気持ちの悪い寝汗の海に沈めたのだ。体の全ての細胞に染み込むように、それは彼女を押し潰した。圧死させるように。カーレンは上体を起こす。
 現実。黒の姫シュリを連れて、和秦、安房は里見家へ、太陽の姫の御座――プリンセスパレスへ向っている船の中。
 黒、白、青の姫達の安らかで落ち着く寝息が耳に心地よく聞こえていた。



 カーレンは上体を起こしたまま、目を、再び閉じる。夢の中に現れた赤い目の母が、自分を見ている。
 優しい微笑をたたえ――しかし一瞬の後に妖しい嗤いになる。


(――お姉ちゃんなの……? 本当に……?)


 そう、彼女にはその母が、姉と慕う人物としか思えなかったのだった。






 2
黄の章(上)第一話へ続く
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