スーちゃん、と微笑んでカーレンは言う。
「好きだよ」
 細めた彼女の目尻が、少しだけ煌めいた。
「僕も」
 上手く言えないけど、と言い淀みながら、カーレンの耳元で確かに囁いた。
「好きだよ」
 もう一度、お互いは向き合う。
 離れていたことも、冷たくしていたことも、恐れていたことも、一瞬にして全てが幻影にすり変わる。
 ふわりと、暖かな風が吹いた。二人の幸せを喜ぶような、それは無邪気な風だった。
 軽く、二人は口づけを交わした。
 互いの全てが互いに渡され、これまでの運命と、これからの未来の歯車が噛み合い、動き出す。
 そして再び顔を合わせた時に、笑い合った。


 カーレンの世界がスピカによって開かれる。スピカの世界が、カーレンによって動かされる。
 運命も呪いも、全てを超えたところにスピカはカーレンと立っている。
 全てが始まった時と同じように。
 変わることなんて無かった。確かな答えが、ずっとずっと前からあったのだ。


 どちらからともなく、手を出し合う。そして、繋ぐ。
 もう離れることはないと思えるくらい、確かに暖かく、深く。

「スーちゃん」
「何」

 二人は砂浜を歩いていく。

「これからどこに行くの?」
「――行きたいところがあるんだ」
「一緒に行ってもいい?」
「当たり前だろ」

 少しぶっきらぼうにそう言うが、スピカは未だ顔を赤らめていた。
 カーレンは目を細める。

「あ。おばあちゃんに会っておかなきゃ。先でもいい?」
「いいよ」

 二人が歩いている方向とハーツの家の方向は反対なので、二人は一緒に向き直る。

「スーちゃん」
「何」
 まだ歩きださないカーレンは、スピカを見上げた。おのずとスピカもカーレンを見る。
 白い肌、日の光の髪、肌を走る赤い刺青に、生きる体に誰もが持つ、生を象徴する血のような赤い目。全てが、スピカを刺激する。
 カーレンは、無邪気に問う。


「これからも、ずっとずっと、一緒にいてくれる?」


 スピカは息を飲む。
 そして、言った。
 笑って、言った。


「当たり前だろ」


 二人は笑い合う。
 そして手を繋いだまま、二人は二人だけの道を新しく、歩き始めていった。





(了)

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