三人は正装から城に来た時と同じ服装に衣替えし、自然と足をプリンセスパレスに運ばせた。和秦の建築物から、遠い異国の建築の領域に入ってゆく。昼から夜になるような、いや、夜から昼になるように異国の域に入り、そして光が満ちてゆく。
 途中、シリウスと再会した。


「やはり京へ向かうのか」
「ええ」
「なら私も追って加勢しよう。少し遅れるかもしれんが――三人は今から御座へ?」
 三人は頷く。
「そうか」
 シリウスは優しく笑って、一人ずつと目を合わせた。シリウスは満ち足りた顔をしている。あの日散った無色の八人と有色の四人。そのうちの三人が戻っていく。母のもとへ。そしてまた飛翔していく中に、シリウスはある種のあらがいがたいものを確認した。



 シリウスと別れた後、一人の女性が、やはり姫の御座に続く回廊上で三人に近づいてきた。カーレンよりもずっと年上のように見えて、まったく無邪気な少女のようにもスピカには見えた。ふんわり毛先が巻かれた黒髪と柔和な顔つき、しぐさ。スピカは彼女に会ったことがある。彼女は確か、とスピカの頭が名前の選択に働き出す前にオーレが解答を示した。

「やあ雛衣。ただいま」
「おかえりなさい。王礼」

 きょとんとしたカーレンが小声で訊く。

「スーちゃん。あの人は?」
「オーレさんの奥さんだよ」

 夫は今までいた火の島のことや、さっきの礼蓮の様子などを話し、摘んだヒメジョオンを思い出したように彼女に渡した。妻は最近の里見の気候のこと、そしてやはり息子のことを話し、野花の贈り物に喜んでいる。
「紹介が遅れた。こちらが火の姫のカーレン君」
「はじめまして」
 変わらずカーレンは笑って答えた。誰にでもそうして返すのだろうが、スピカは彼女の誰にでもそそぐ笑みを何故か羨ましがった。
「王礼の妻の雛衣です。いつも夫がお世話になってます。――スピカ君も、お久しぶり」
 雛衣がスピカに向かって笑う。返しがたくて声にも出さずただ頭を下げた。優しく笑える力のあるカーレンがやはり羨ましい。

「――あの、雛衣さん。王礼って、オーレさんのこと?」
「そうよ?」
「そうだよ。僕の本名は司馬王礼だからね。雛とは小さい頃からずうっと一緒だし、今更改名で呼ばせるのもね。そう変わらないじゃない。王礼とオーレは」

 会話の外にいたスピカは会話に入りづらかった。仕方なく無表情に近い顔で周りを観察した。等間隔に大人しく立つ木々。少しずつ葉の量を減らし、少しずつ大人の色に染まっていく。高い青空と鰯雲が、やはり秋を彩らせていく。
 ふいに見たオーレの顔に、悲哀の情を何故か、感じた。

 終わらない何かから逃げている。そんな感じをスピカは抱いた。

 目の前から目を逸らし、耳鳴りから耳をふさぎ、唾液から舌を逃がし――
 しかし開き直りさえすればオーレはまたいつも浮かべる笑みを大事に抱いているのだろう。

 スピカはその悲哀を秋の所為にした。

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