城内に入り、スピカとオーレは着物を変えた。といっても羽織や浴衣が標準衣装のオーレは直垂姿でもあまり変化はなく、スピカだけは目新しかった。スピカは着物の持つ、体中に巻きつく感触は苦手だったが着替えるのはわりと彼の趣味の内だった。カーレンは桂単を着ていた。
 南国の娘が異国の、しかも謁見時などの正式な時にしか着用しない服を着ているのは少々おかしくもあったが、カーレンには意外と似合っていた。

「歩きにくいよー重いよー。スーちゃんのはぺらぺらして楽そうだね」
「そう文句言うな。謁見だぞ」
「烏帽子は似合わないよね」

 オーレに言われると少々腹が立つが、確かにスピカはこの和秦の烏帽子は頭に付けると不安定で苦手であった。髪は結い上げている。それがカーレンにとってもオーレにとってもやや新鮮であった。






 城のちょうど中央に位置するであろう、畳が大海原のように広がる政所に、三人だけがぽつんと座っていた。やがて殿の御成り、と声がして、三人は一緒に頭を下げた。静かな足音と衣擦れの音と、空気の揺れが三人を堅くさせる。

「顔をあげてくれ」

 陽星の発したような声で、そして落ち着いた口調で、
 安房里見の国の主、里見陽仁は三人に命じた。

 中央のカーレンと真っ先に陽仁は目が合った。陽仁の顔は幾分か痩せてはいるが、カーレンには身は詰まっていて引き締まっている気がした。陽星が受け継いだ元となる、強く優しい目がカーレンをとらえて離さない。

「――カーレン、だね」
 にこっと、まるで陽星と同じ風に笑ったので、カーレンは己の身分を忘れ、つい笑顔になって
「お初にお目にかかれて光栄でございます。
 南の諸島、火の島より参りました、カーレンと申します」
 とはきはきと、かつしとやかに奏上した。

 スピカは、カーレンが人並みの礼儀作法や喋り方を身につけているのに内心驚いている。彼女は巫女だから、仕事で目上の方々と接することもきっとあったのだろう。それでもなんだか意外だ。
「そう堅くなることはないぞ二人とも。もっとカーレンのように楽になりなさい」
 ではそうさせていただきますとオーレはすぐに体中から緊張を霧散させたが、スピカはなかなかうまくいかないので、自分より前を行く二つの星座を少し羨ましく思った。

「シリウスが姉上に似てると言っておったが、似ているなあ」
「若様もそう仰っておりました」

 スピカは仕方なくなり、その会話を受けてここより更に中央に位置する聖地に視線を投げた。

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