「明日は月いちの祭がある。お二人ともゆっくりされていくといい。
 なに、あたしとあの子だけの家で部屋はいくつか余ってるからね。遠慮しないでお使い」
とハーツが言うので和秦への出立は明後日になりそうだった。スピカはオーレもカーレンも、他の九人も一緒に立っている運命にさほど興味がない。別に彼は急がない。




 空は太陽が沈むと一気に姿を変え、多くの星で自らを飾る。そして自分を見て欲しいと積極的に星をきらめかせる。人々は皆空の闇の空間ではなく装飾の星に胸をときめかせている。
 もう子の刻――零時を回ったろうか。スピカはカーレンの家を出て、浜辺で星を見ていた。
 誰か来る気配がした。鋭い目をもっと尖らせて気配のする方に目をやると、そこにいたのは、カーレンだった。

「なんだ」

 スピカは少しほっとした。
「スーちゃん、星見てたの?」
 カーレンは昼間の服とあまり変わらない寝巻きを着ている。そして、昼間のようにスピカの隣にふんわりと腰をおろした。

「別に。眠れないから」
「ふうん。ね、スーちゃんの名前って……たしか星の名前でしょ?」
「そうだよ」
「今、見える?」
 とカーレンも壮観な星空を仰いだ。だがカーレンの言葉はやんわり否定された。

「おとめ座の、一番明るい星だけど、今は黄道に出ちゃってるからな。
 今そこに見えるのはさそり座だ。夏によく見えるのはこの星座だよ」

 さそり座の珠を持つ男も、確か以前に会っているが、すぐに出発してしまったし、印象が薄い。
 無口な人だった。

「いつ見えるようになるの?」
「次の年の春だ」
 残念、とカーレンは天に流れる天の川を見ながらいった。

「でも詳しいね。スーちゃん」
「昔、父さんと母さんがよく教えてくれたからな」


 そう言って、しばらくして、何を思ったか黒と白の円が連なる髪飾りを外した。
 外して、じゃらじゃらもてあそんだ。
 少しだけ笑みを浮かべていたスピカであったが、もう微笑の欠片も現れていない。


 カーレンは、何も言わなかった。全てわかっているのかもしれないし何もわかっていないのかもしれなかった。
 それでもカーレンは波の音と髪飾りの音と、二人の聞こえない鼓動に静かに耳を傾けていた。

   4
第三話
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