風の音が物に当たって、さわさわ聞こえるほどの静寂が舞い降りる。
そう、スピカとカーレンが出逢ったあの浜辺のような。
時が止まるような――
「っとにこの子は。ごめんね怖がらせちゃって。
もう少しやわらかな物言いをしなさいやわらかな。仇討ちとかね」
「どっちも同じじゃないですか」
オーレのなだめも、オーレだからなのか効果は無い。
カーレンは、ただ何も言うこともなく赤い瞳で、ふくれっつらのスピカの横顔を、
ただ見つめていた。
「あー! カーレンっ、ちょっとっ!」
別の少女が走ってきてカーレンの肩をつかんだ。何かの衣装だろうか、それを大切に抱えている。
「あら? タキーニどうしたの?」
「おねがーい。今日、彼と土の島に行く約束だったんだけど、着ていく服みんな洗っちゃってて……」
土の島は若者向きの中心街が栄えた島だ。
タキーニという娘をよく見ると、たしかにデートに出かけるというような飾りをつけ、化粧もしていた。けれど服は今カーレン達が身につけているものと大差ない。
「乾かして」
とタキーニは燐寸箱らしきものをおずおずと差し出してカーレンは快く返事をしてそれを取る。
そして軽快な音を立て点火。
「おいっ。燃やすのかよ」
スピカは慌てるがカーレンは特に変わったこともないように言う。
「あ、スーちゃんは知らないんだね。これねえ、おまじないなの。
何でかよくわからないけど、私が火をつけると、服がすぐ乾いちゃうの。
でもやっぱりお日様で乾かしたほうがみんな好きだから、緊急のときだけ、ね」
言い終わるが早いか、ふっと甘いため息のような息で火を消した。
タキーニの服をよく見るとなるほど、どことなく湿っていたはずの服が、青空のもとで乾かしたようなつやとはりを持つ服になっている。
「ありがとーっカーレン」
「どーいたしましてっ」
ぎゅっとカーレンを抱きしめ彼女はいそいそと帰っていく。オーレはここで何かに気付いたふうに言った。
「そうか――君は火の姫でもあるから、あんなことができるのか」
火の姫? とカーレンは首をかしげた。
「オーレさん。カーレンは火の姫ですけど何か?」
「いや?」
言ってオーレは年相応の微笑をした。
――陽姫の十二の珠のうち、四つの色を持った珠は四方に飛んだ。
カーレンの持つ赤い珠。赤は南を司る色。そして、火を司る。
蟹座の姫はまた、火の姫でもあるわけだ。
「ちょっと前に嵐があったから、洗濯物たまっちゃってね」
サーラは苦笑した。娘たちは各々の桶の中できゃしゃで若々しい手を水と遊ぶように動かしては服を洗っている。
「暑いから汚れるのか」
「というか、みんなおしゃれ好きなだけだよ、スーちゃん」
などと話を続けながら時間を過ごした。