いつもと変わらない。南の島なのに白い肌。控えめな胸、足のふくらみ、手、指。
 しかし重要なのは今カーレンの視界に入っているものではなく、どうも鎖骨に散らばっているようだ。


「――蟹座だ」


 ここ、というようにスピカは自分の鎖骨の中央付近を指し示す。

 蟹の刃を円状に結んだ、夏至点の位置する星座を表す紋章。
 神話の勇者に果敢に挑み、すぐに敗れた哀れな大蟹。
 スピカの紋章とは違ってはっきりとした色をもっている。

 赤色だった。

「カーレンは七月七日生まれ。少なくとも現在の暦が続く限りは蟹座じゃろ」
 ハーツは可笑しく顔をほころばせた。
 まさか全身赤い刺青だらけで、蟹座の紋章に気づけないとは。集まった八人のうちで一人は右頬にその痣があり、たやすく気付けたが、カーレンの場合、正に木を隠すときは森に隠す、灯台下暗しといったところか。今、別行動をとっているあの男に知られたらさぞ笑いの種にされるだろう自分が恥ずかしい、とスピカは苦々しく思った。


「じゃあ、すぐ和秦に行く準備をしなくちゃだね、おばあちゃん」
「そうだねえ。けど明日の祭りが終わってからにしなさいな。急にサーラに代わってもらうとサーラが困るだろうし」
 ハーツは自らお茶を汲んで、飲んだ。そのサーラという女の名に、カーレンはあっと声を出した。

「あ――約束してたんだったあっ、スーちゃん、すぐそこだから来てね来てねっ、おせんたくっ」

 言い終わるやいなやカーレンはいくつかの洗濯物らしきものと大きな籐製の籠を持って家を飛び出した。


「――じっとしてない奴」
 スピカは冷たく言った。正直、やや呆れていた。神に仕える巫女という荘厳さが感じられない。あまりに自然で、無邪気で、優しい感じがしていた。

 ハーツがお茶をさしだしたので、ご馳走になる。
「それにしてもスピカや。やけにあっさり話したの。さっきの話」
「僕にはほとんど関係ない話ですから」
 スピカは言い切った。
「つい最近聞かされて、その話。
 もう少しで夢が果たせたのに。いい迷惑ですよ。まったく」
 それからしばらくして、ハーツは
「わかってたよ」
と言った。

「カーレンも父母を亡くしてね」

 スピカは思わず訝しげな目つきでハーツを見てしまった。ハーツはまた茶を汲んで、それを飲み、ふうと息をついた。

「うんと小さい時だから当時のことを覚えちゃいないだろうけどね」

 スピカは言葉を耳に留めて、外の広大な青い海に、やりきれず、堪らず目を向けた。

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第二話
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