「この珠と似たような珠をお持ちではないですか」
横からカーレンがまじまじと珠をのぞきこんだ。彼女は珠の存在を知らなそうだった。
「ふうむ」
顔色一つ変えず、よっこいしょ、とカーレンの祖母は立ち上がり、奥の部屋へちょっと入ってから戻ってきた。何かを持っている。木箱だ。
「同じものだと思うよ」
箱を開けると、布にくるまれた赤い珠がひょっこりあらわれた。スピカは思わず息をのんだ。間違いない。四つの色のうちの一つの、赤色の珠だ。
「この子……カーレンがね、初めて巫女を務めた夜に流星群が起こってねえ。その時、カーレン、お前は覚えちゃいないだろうけど、私と眺めていたときに突然浜辺から波打ち際に駆け出して、これを見つけたのさ」
カーレンは別段深刻になるふうでもなく、ふうん、と口笛吹きのように呟いて頷いた。
「申し遅れたけどね、私はハーツというよ」
「ああ、はい。よろしくおねがいします」
「少し話してくれんかね。この子が――、きっと必要なんじゃろうし」
少し、そのゆったりとした王者のような空気にスピカは気後れしながら、語り始めた。カーレンも、耳を傾ける気があるようだ。
「三十年前――
和秦・里見国。怨霊、玉梓の呪いにより、里見の姫・陽姫が黒く欠けた太陽と交わってしまった。
しかし姫の神なる力で呪いの子となるはずの十二の魂は浄化され世界に放たれた。
太陽の道を守る黄道十二宮と、人の和を守り、人の守るべき道、人道八行を持つ十二人。
うち四つはきっかり四方に飛びました。
黒い珠は北へ、
白い珠は西へ、
青い珠は東へ、
そして赤い珠は南へ」
「これのこと?」
カーレンが箱から大事に取り出してきいた。透き通った血の色をしている。その赤い珠にスピカは多分、と頷いた。
「うん。何か浮かんでるよ」
「陽姫は魂だけとなって、今も里見の城の中央に位置する太陽の祠にいるのです。そこは昼夜問わず、今も黄の光が絶えることがない。
姫の
プリンセスパレス。
陽姫の復活には、僕達十二人が必要なのです」
スピカは劇の役者であるかのように、自分達のいきさつを説明した。ほんの枕の部分だが、陽姫の存在なくば、彼はこの巫女の家にはいない。
カーレンはそのいかにもおあつらえ向きの説明をするスピカの横顔を見つめていた。カーレンにはやけにその横顔は険しく、しかしどこか苛立ちを感じさせるものに見えた。
「これは、蟹座の記号でしょう」
カーレンの手のひらにころがった赤い珠をひょいと取り上げ、スピカは言った。
「あとは、蟹座のその浮かんでいる印が体にあるはずです」
「スピカ。君にもあるんじゃね。その――、右腕のひじに」
ハーツに指摘されて、少しどきんと胸が鳴ったがその通りですと細くて白い腕をみせた。
「カーレンにもあるんじゃよ。とてもわかりやすい位置にね」
ハーツはしわしわの腕をゆっくりあげ、そして孫娘を指さした。カーレンの体中に這う赤い蛇のような刺青を指しているようだった。
カーレンは自分の体を、あごをひいて見つめる。