十二個の、真珠のような珠。

 うち四つ、青、赤、白、黒と光っている。


「――私の、魂の子供達――?」


 それを生み出したはずの陽姫自身、目を丸くしておどろきながらみつめる。十二個の輝く、星。


 三歳の時告げられた――
 四人の姫。八人の王子。
 自分には何も見えなかった黒い水鏡が、ちかちかと陽姫の脳裡に甦る。


「そうなのね――」

 十二の星。四つの星。八つの星。陽姫と天狼、二人で語った儒学と天文。
 ふっ、と消えるように陽姫は微笑んだ。そして、天狼と小さな声で呼び、二人は手をにぎりあう。
 陽姫から湧き出てくる黄色い光が、心を落ち着かせる。

「陽姫、何ですか」
「天狼、いつか言ってたよね。太陽の通り道の星たちは、黄道を守っていて、そして強いって。
 この珠は、きっと黄道十二宮よ。十二個……あるもの」

 玉梓が冷たくこう言い放つ。

「ふん。黄道十二宮はいいものばかりではないと知ってお前はそういうのかい。

 お前とそこの男の獅子宮が本当は凶暴な獅子だとわかっているのか?
 そしてその十二の珠のうちの一つも、凶暴で凶悪な獅子の子供なのだ」

 しかし、その珠は次々と、神聖な光の中で紋章を浮かばせた。
 羊の角、乙女の髪、魔を貫く矢などが浮かんでいる。
 白羊宮から双魚宮までの十二宮を表すそれぞれの記号だ。

「――そうだわ、きっと八つの徳だってあるわ」

 ゆっくりと、陽姫は立ち上がれるまでになった。

「徳だと? この十二人はいずれ里見に凶星となって現れる呪いの子達なのだぞ。愚かな姫めが」

 そう、玉梓は嗤うのだが、陽姫は玉梓を動じずに見つめていた。

「人道八行よ。ほんとうにあと四つそろっていたらよかったのに」

 そうして陽姫ははにかんで笑うのだった。

 そう、うち八つに人道八行のその文字が浮かんだ。
 四色の珠にも何かが浮かんだようだった。


「私の子供達は、悪い人間じゃないわ」


 玉梓は、あの妖しい嗤いを止めた。彼女も黙って陽姫をしばらく見つめ、やがて呟いた。
「お前の子供ではない」
 叫んだ。



「私の子供達じゃ。十二人の子供じゃ!
 遥か昔、斬られ焼かれ埋まれ溶け溺れ殺された、私の子供達じゃ!


 憎い! 里見が憎い!


 子供達――この里見を、和秦を、この世界全てを失くすのじゃ!」


 陽姫も、叫ぶ。


「いいえ!
 太陽の御道を守り司る黄道十二宮の子供達は、この里見を、和秦を、世界を守るもの!」


 その時、十二個の珠は上昇した。
 そしてばあっと、糸を切ったように飛び散った。


 赤は南に、
 白は西に、
 青は東に、
 黒は北にしっかりととび、
 残りの八つはばらばらにとんでいった。


「私は――
 私は里見を、みんなを、守ってみせる! 救ってみせるわ!
 そして――」


 陽姫の口が、四つ、言葉を放った。

 しかし、届かない。日蝕が終わった。溢れるばかりの光がさす。光は音すら遮った。
 天狼の目に二人が焼きつく。刺すような光。強くて逆に、恐ろしい――
 裏の闇に、天狼はその中に倒れた。

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