太陽はよどんだ雲にさえぎられていた。濁った空と空気が里見を包む。
 奇妙な知らせが届いた。御家人や、民間の兵たちが安西家と応戦していて何とか民たちや、城内の者を守っているのだが――
 致命傷を与えたとしても、敵は倒れることなく、甦っては襲ってくるのだという。
 天狼、と陽姫はその不気味なしらせをきいて、ますます天狼や父や、その他の人々の生還を太陽の祠で祈るのだった。


 翌日は、あの不吉な空模様がうそのように消え、少しの白雲を残した青い空模様となり、太陽もあたりまえのように陽姫たちを照らしていた。少しホッとしながら陽姫は今日も祠へ向かう。
 そして途中立ち止まり、陽姫はいつかの言葉を思い出しながら、太陽を見上げた。

 ――私、男の人って嫌いよ。
 戦いばっかりで、けんか、ばっかり。
 天狼も、いろんな学問を知ってたり、お星様のこともたくさん知ってるけど、
 やっぱり、辰川家の武士じゃない。
 ――だから私、太陽のお嫁さんになる。おひさまはいつも私たちのそばにいらっしゃる。多くの恵みを与えてくださる――

 太陽の光がいやにまぶしくて、見上げることをやめる。
 この言葉を、陽姫は今、少し嫌い、少し後悔した。天狼も家臣も――この国、人々、そして自分を想って、守って、敵の白刃の中にいるのだ。
 ――戦場に出ていく天狼を、やはり止めればよかった。でも。
 無事に戻ってきて欲しい。
 そして陽姫は祠へ、祈りをささげに再び進む。
 あの言葉を、本当に後悔する瞬間が待つ、その場所へ。




 再び、雲行きが怪しくなってきた。不安になりつつ祠へ入ると、目線の先に何かの木の枝が落ちているのに気がついた。
 その枝をとってみる。見慣れない枝だったが、かすかに、辰川家の書物の中でこの枝の絵を見た覚えがあった。
 今は夏なのに、紅葉していた。自分の幼名と同じ、黄色の葉。

「ミズメ――梓」

 まじまじとその枝を検分し、再び陽姫が顔を上げると、その枝のときと同じように、見慣れない一人の女性の後ろ姿が見えた。
 誰だろう。豊かな黒髪。あんなきれいな髪の女官はいただろうか。京の都にはたくさんいそうだ――などと思っていたら、女性は振り向いた。
 目を、白い布でまるではちまきを締めるように隠している。妖しく、微笑んでいた。

 陽姫は思わず、梓を落とした。

  3    
プリパレトップ
novel top

inserted by FC2 system