「数年見ないうちに……たくましくなったのう、チルチルは」
「もちろん」
 チルチルの笑顔はとびきりだった。痛みを超えた後に生まれる強さの象徴だ。
「可愛くなった、ではないんだ」
「細かいとこ気にすんなってスーちゃんよぉ」
「その呼称で呼ばないでください」
 与一はケラケラ笑っている。スピカは呆れたが、同時に思い出す。


 あの優しい、自分を呼ぶ声――。


 立ち話は何だということで館へ入ろうと一同は移動した。しかしスピカは太望から呼ばれるまでぼうっと空を眺めていた。悪天候はいつの間にか終わっていた。日差しも気持ちの良いものに変わっていた。宇宙へ突き抜ける程青く晴れた空が広がり、全ての人間を等しくさせる。
 そして、スピカは同じ空の下に声の主がいることを感じた。


 ただそれだけなのに、世界は明るい。


(いつから……こう思うようになったんだろう)
 スピカは心地よい疲労を感じながら歩きだす。
 戦いが終わり、悲しみがあるというものの、気持ちが良かった。運命に囚われず、ただ仇討の為に生き、誰の干渉も受けようとしないことが、今はやけに面倒くさく感じる。
(いつから、あいつのことを……)
 カーレンは何ものにも囚われていなかった。大きな運命の流れにも、人の死にも。何があったとしても、どんな困難だろうと、大したことないよと笑うだろう。そう、どんなことがあっても、寒さの中で体を癒す火の暖かさのように、スピカを溶かすだろう。


 どんなに悲しいことがあっても、彼女の手が血に濡れたとしても。
 まだ、この時点では、スピカはそう、思っていた。


 急に眠気を感じて、スピカは一つあくびをした。

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