老人はアルゴ村の村長で名をプリクソス・コルキスといった。彼の言う事件とは、村から若い男女――特に女性が多く攫われているというものだった。つい先日村の青年は全て姿を消し、残った若い娘達は今、村長の家にいる数名だけだった。
攫われたところを命からがら逃げ帰って来た娘が言うには、犯人はアルゴ村領主・イーノーだという。
「で、その女領主を成敗ってことか」
家に入り壁に寄り掛かっていた与一はきちんと立ち直し、指を鳴らした。表情はわくわくしているのがわかるいい笑顔だった。
「いいぜ村長さん。旅は道連れ世は情け、ってことでどんと任しときな」
スピカには少し不安が生まれたが、与一の頼もしげな声と笑顔で、村民がわっと喜んだので、やるか、と気分を切り替えた。青年がいないなら、戦力も頼りないだろう。
ここにカーレンがいるなら何と言うだろうか。
かっこいい。すごいね――耳の奥でそんな声がする。
頑張ってね。スーちゃんなら大丈夫だよ。
頬を染めながら、スピカは左手首の黒い紐に少し、触った。