ぱちぱちと薪が鳴る。ニコの眼前に炎が熱く揺れていた。炎の前には串刺しになった魚たちが生贄のように円状に並び、何かの儀式めいて見えたが、実はただの食事というきわめて俗な時間にニコと太望と死魚がいるのだった。

 ニコはぼんやりしながら魚の白身を口にしている。さっきまで生きていた魚をニコが食べ、ニコは命を燃やす。魚の命がニコの命となり、同様に何百もの命がニコのひとつの命に還元されている。ニコの宇宙は深い。しかしニコが考えているのはちっぽけなことで、昼間出逢った少女のことだった。


「どうした? 美味しくないんか?」
「ううん」


 ニコは髪を揺らし否定する。向かいの伯父・太望は魚座だがよく食べた。太望は魚座だから魚を食べたら共食いだとオーレか与一が言っていた。そしてニコは与一と初めて出逢った場面を連想で思い出す。ニコと、太望、オーレで並んで釣りをしていると、川上から信乃――水瓶座の青年と一緒に流れてきたのだ。そして与一の右頬にあるあざは三人の胸を同時に躍らせたのだった。


「ねえおじさん」
「何じゃ」
「実は――」


 あの時と同じ感情が、チルチルの肌にあったように見えたあざを、錯覚ででも捉えた時に花咲いたのである。ニコは錯覚だとしても、その時の感情を見過ごせなかった。錯覚でも何でも、ニコはチルチルに、もう一度逢おうと思った。


  3
第四話に続く
プリパレトップ
novel top

inserted by FC2 system