いつか王子様が



 日が沈み十分に暗くなってから、メーテルリンク家の食事が始まる。アルゴ村の領主であり、この館の主人であるイーノーは、目を見張る程大きな長方形のテーブルの上座に居て、ナイフとフォークを持ち、優雅に、つんと澄ました顔で食事を摂る。館の使用人達は彼女より早く食事を食べ始めてはならないし、彼女より早く食事を食べ終えてもいけない。それが彼女と共に食事をする者のルールである。

 チルチルはイーノーの近くで食事をのんびりゆっくり摂る。イーノーは高級そうな赤い生地のドレスを着、赤い口紅に赤い爪、そして真っ赤な瞳をしていた。チルチルの服や体の部分には暖色系は少なく、またイーノーとチルチルは親子ほど年が離れていて、艶めかしい赤色や大人の雰囲気をチルチルは羨ましそうに眺めている。
「近いうちに」
 イーノーがその妖艶な口を緩ませた時使用人達は食事の手を止めた。チルチルも慌てて止めたため金属音がやかましく立つ。隣に座っていた、仕事仲間にして姉妹同然の間柄であるネフェレが顔をしかめ、イーノーもチルチルをちらりと見る。失敗したとチルチルは心の中でばつの悪い顔をする自分を見つける。
「イオルコス地方からイアソン公のご子息が三人訪れるわ」
 何事もなかったようにイーノーは続けた。そしてチルチルの方を見て妖しく微笑した。チルチルにその妖しさは解らなかった。
「仲良くなれるといいわね」
 チルチルから見たイーノーは善良な笑顔だった。チルチルは嬉しそうににこにこ笑っていたが、隣のネフェレは二人の顔を見て口を重く閉ざしていた。


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