シュリはようやく一階に降り立つ。四階からここに至るまでに火は家財道具や壁や床を喰らってどんどん成長し、まるで意志を持ったかのようにシュリを威嚇し、足を阻む。しかしシュリは熱を痛みをものともせず、ただ外の人々の為に、道なき道をを進む。
 こんなに明るい火の中で、シュリはただ、闇雲に進む。闇の中をただ、行く。ふらふらな足取りでとある扉を横切った、その時であった。
 ばあんと何かが破裂したとんでもなく大きな音が耳を貫いた。そして悪意でもあるかのような強風がシュリの体を殴る。更に周りの火を上回る熱が胸を刺す。状況が掴めずに、床に叩きつけられた。そして、シュリは理解した。

 爆弾だ。華北や和秦では流通していない、欧で作られた威力が凄まじい、一流品。

 がらがらがら、と周りの壁、調度品は爆発で脆く崩れ、シュリの体を埋め尽くしていく。シュリは、動けなかった。その自らの危機を――もう別次元のことのように思っていた。

(――死ぬのかしら)

 シュリは虚ろに自らを突き放して思う。
 まんまと罠にかかり、囚われ、誰も助けることが出来ず、花依ともう一度会うことも叶わず、双助との約束も、捨てたはずなのにぐずぐずと持っていて、果たすこともなかった。

 双助は、九人を連れてきたのに。

 急に疲れが堰を切って背中から体全体を蝕んできた。
 とにかく休みたい。もう休もう――
 一粒の雫を、目から零す。
 シュリは、思考をやめることにした。


 その時に、声を聞く。
「シュリさん!」
 凛と通る声だった。火を打ち消す水のような声の主はシュリを覆う瓦礫をどんどんのけていって、シュリを救う。
「よかったあ! 大丈夫ですか!」
 聡明な顔立ちがシュリの目に映る。人懐こい笑顔の輝きがシュリを醒ます。
 双助とシュリは、ここでようやく、もう一度巡り合ったのであった。シュリは自分の頬を、熱い一筋の水が通っていくのを拭わないで立ち上がろうと――思考が鮮やかに蘇っていくのに気がついた。



       8
黒の章第八話に続く
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