「さて、シュリ君を探すとしましょうか」
 スピカの隣にいたオーレはずいずいと前に出る。のんびりしていられねえと与一が次に進んだ。
「でもお兄さま方、珠はお城に置いてきちゃったわ。それでシュリお姉さまを探せるの?」
 そう、チルチルの言う通り、スピカ達は己の分身と言っても過言ではない珠を瀧田城に置いてきた。無論、考えがあってのことだ。花依や、救い出した陽星を何とか守る手立てとしてである。若干、姫の御座から湧き出る陽姫の加護の力も強くなるはずだ。十一人の力は珠に依る所も大きいが、それゆえ、二人を守る力ともなる。
 スピカは、煙の上がる城を見る。
 窓の方から覗いた赤く、揺らいだ炎が、ちらりと視界を掠める。
「あ――」
 途端彼は――最大の敵を想起する。赤い目をした、スピカから根こそぎ全てを奪った、白く、柳のように揺れる、生気のない男を。そこにいる、その城にいるとスピカの体内を血の信号が駆け巡った。
 きらり、と目の前が光った。気付けば全員の目の前が光っている。カーレンと李白、チルチルの光は赤、白、青に煌めいている。その光からぽとりと掌にこぼれる何かがあった。
「珠、だ……」
 城のあるはずのそれぞれの珠が、それぞれの主人のもとに還ってきた。
「何で――」
 まじまじと、今更ながらスピカは己の珠を見返した。無色透明、乙女座の紋章と智の一文字。
「スーちゃん! みんな!」
 カーレンの高い声が全員に届く。彼女のその赤い目はただじっと、城を見つめている。
「あのお城だよ! きっとあそこにいるよ!」
 返事も聞かず、スピカの手を掴み、カーレンは城に向かい直進していった。珠は光り出し、彼女の行く道が正しいとでも言うように強く輝いている。


「スーちゃん」
 熱風に、囁くようなカーレンの声が乗る。体は火照り出しているだろうが、それはいやに冷静だった。
「――何」
 先頭きって走る二人にしか聞こえない会話だ。
「もう気付いてるんでしょ? 黒の姫の――シュリちゃんだけじゃなくて……」
「ああ」
 わかっているさとスピカは眉を寄せ、城を睨む。赤い目の仇が空間を超えて睨み返してくる気がした。それは恐怖だ。スピカの内からざわざわと虫が這うようにわき上がる。確かに感じている。スピカは怖がっている。
 でももう、逃げない。自分を見失いもしない。誰かを傷つけたりもしない。
「今度こそ、決着をつけるつもりだ」
 スピカはカーレンの手を握りしめ、走る。
 もう恐れはしない。



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