そして禹も劉も尭の屋敷を飛び出し、革命だと大声で呼びかける。人々は各々武器を持ち出しては悪徳貴族達の館へ攻撃を開始、突撃する。中には玄冬団以外の、尭に養われている用心棒のような団体も多く、はしゃぐように我も我もと革命の波にのる。誰もが革命に気付いているように、そのくせ気付いていないように、家を燃やしつくす熱に浮かれるまま。
 貴族達に対し、尭達は三倍か、それより多くの人口密度を持っていた。襲っては武器庫などを開け、着実に戦闘員を増やしていく。長屋の方の消火が終わる頃には、今度は貴族街が火の海となっていた。


 舜は一時戦線を脱し、長屋の人命救助に取り組んでいた。多くの人民を助け尭の屋敷に行くよう促す。一段落を終え、貴族街から立ち上る煙を厳しい目つきで見据えた。
 長い間動くこと無く、錆びてしまったのかと思っていた革命の歯車が、廻った。思っていたよりあっけなく、容易く。その長い時間が嘘のように、ぐるぐると、あっという間に何回転も繰り返し、触れれば即座に血塗れとなる。物言わぬ肉片と化す。

 そんな中で、シュリはどこで止まっているのか――兄として舜は想いを馳せる。

 その時、背後から声をかけられた。
「すいません! 一体、何が起きたのですか」
 聞き覚えのある声だった。少し前に、里へやってきた使者の声だと、舜は振り返る。
「あっ……舜さん!」
「双助君!」
 舜は思いがけない再会を果たす。聡明で優しげな顔立ちをした青年の後方に、同じく使者であった信乃、花火、そしてオーレの顔も確認できた。彼らの他に見知らぬ面々が七名くらいいる。
「今からシュリさんに会いに、里まで行こうと思っていたんです。でもこの騒ぎが気になって……」
 そうかと舜は彼らと別れたあの日を思い出す。シュリを、十一人連れて迎えに来ると彼は言っていた。舜はしかし彼に告げる。
「それが――シュリがいないんだ。朝から行方が分からない」
 双助は眉を曲げ煙の立つ方向を見た。舜も振り返り視界を同じくする。
「見ての通り――」
 体ごと煙の方を向かせ、十一人に舜は背を向けた。
「俺達は今――革命活動を行っている」
「――下剋上、みたいなものですか」
 君たちの言葉で言うならば、と舜は重く頷いた。
「この流れはもう、止められない。時は、動きだした」
 一瞬風が吹いた。次の瞬間、ズドンと鈍い音が紂の城の方から鳴り響く。原の底、臓器の壁に響くその音はもう一発炸裂する。平民達の住む方向へ、どうも大砲が発射されたらしい。
「大砲か――やっかいだな」
「あのお城の方からも煙が出ているわ」
 場違いな童女の声が舜に届く。目をやるといつの間にか双助のもとまで十人が集まっていた。
「双助君。とにかくシュリは今ここにはいない。俺ももう――行かなければならない」
 もう一度双助と舜は向き合った。双助は優しく、そして何か確信し、何処かへ真っ直ぐ向かおうとする強さのある目をしていた。舜は彼の肩に手を置く。
「シュリを、よろしく頼む。きっと近くにいるはずだ」
「――はい!」
 その力強い返事を聞いて、一瞬の笑顔を閃かせた舜は砲撃を受けている街へと駆けた。


  3     
プリパレトップへ
小説トップへ

inserted by FC2 system