「こちらへ、急いで」
 シリウスが言うなり引き返していく。事情をスピカ一行は同中で聞いた。そのやり取りでチルチルの紹介がされたが、彼女は来たばかりだというのに陽星の身を案じていた。その様子は自分のことのように真剣だった。
 館山城の蟇田素藤という男が、奇妙な力によって陽星を誘拐した。彼を人質にして、花依を要求したという――逆らえば、陽星の命は無い。
「もう兵が出ている。殿は一度出陣なされたけど、若の姿を使った挑発があってね。
 今は両者ともにらみ合いというところさ」
 着いた場所は姫の御座――プリンセスパレスだ。
「まだ十二人が揃ったわけではないが――」
 先に着いて待っていたシリウスが一同の顔を見つめ、口を開く。
 自分が止めきれなかった悔い――そして三十年前、今彼が立つ場所で、全ての始まりの場所にいた姫――光となって今も存在する彼女を守れなかった苦しみを晴らすような声だった。
「殿を、若を、里見を救いに行って欲しい」
「当たり前だぜシリウスさん!」
「まかせてっ」
 一番初めに声を上げたのは与一、そしてチルチルだった。
 元気がいい、とシリウスは強張った顔を思わずといった風にほぐした。
「――みなさん、私の所為で」
 小さく、花依は呟く。確かにこの一連の事件は、花依を巡るものだった。
「花依様の所為ではないですって」
「姫という身分では、こういった争いは避けられないものだ」
 大丈夫大丈夫、とカーレンが励ます。さっきまで弱り果てていたが、ここに――プリンセスパレスに来たことで回復したらしい。
「姫のもとには俺と双助――それから信乃とで残ります」
 え? と信乃は素っ頓狂な声を上げ花火の方を向くが、花火はその襟首を掴んで無理矢理信乃を自分側に移動させる。

「お前が姫のもとにいなくてどうする」

 信乃は姫の傍にいたい、という図星を突かれたようで、わかりやすく頬を染める。
「そうだね。ここにいれば――大丈夫だろうし」
「そっちは火も起こせて石壁も作れて、そしてそこのお嬢さんも何か出来るんだろう。
 敵は確実に足元を掬われるさ」
 純粋な兵法には反するのであろうが――ここは緊急事態だ。カーレンの火の力、李白の金の力、そしてチルチルの木の力を駆使する戦いでなければ、勝利は難しいかもしれない。
「それじゃ、花火君、信乃君、双助君。姫を、よろしく」
 お気をつけて、と花依が叫んだ。八人は戦場に向かって太陽の姫の御座を後にした。













 双助は八人を見送り、花火と信乃と花依、そして自分の手を見つめる。
 戦いも心配だが――残るもう一人を、彼は想う。
 黒の姫、シュリを想う。この戦いが無事に終われば彼女を迎えに行く。絶対に。
 約束の条件は――既に整ったからだ。
 双助は一度深く誓った決意をもう一度、体に刻んだ。

    5
黒の章第五話へ続く
プリパレトップへ
小説トップへ

inserted by FC2 system