里の入り口で、シュリと舜が里側に、信乃と双助、オーレと花火、そして花依が山側に立っている。あっという間に夜が明け、別れの時が訪れたのだ。
「それじゃあ花依……国に帰っても、元気でな」
「舜兄さんも、無理しないで」
花依は視線をシュリに向ける。シュリはうつむいたままで、家を出た時から一言も口を開いていなかった。
「シュリ」
花依が声をかけた途端、きっとシュリは顔をあげる。妙に清々しい顔をしていた。
「いってらっしゃい。嫌になったらいつでも戻ってくんのよ。
それから、信乃くんに何かされたら、とっちめてやるんだから安心しなさい」
「え」
花依は顔を赤らめるが冗談よとシュリは笑った。信乃はばつの悪い顔をして冷や冷やしているようだ。隣の花火の顔が変に強張って恐ろしい形相になっている。
「あの、シュリさん」
双助はシュリの笑いを止める。そして信乃と花火に何かを耳打ちした。信乃は左の二の腕まで袖を捲り、花火は襟を大きく開いて左肩を見せた。それぞれのあざが浮かんでいる部分であった。
「オーレさんのは、左胸にあるんです」
「……だから?」
シュリの声は氷が張られたように冷たい。
「シュリさんのあざは――黒の姫のあざなんです。
だから一緒に里見へ、行きましょうよ!」
その事実をここで初めて聞いた信乃達三人と舜は驚いてシュリを見たが、嫌そうにシュリは目を逸らす。
「そうよ……シュリも、一緒に行きましょうよ」
花依が言う。無邪気な声音だった。
シュリは頭をふってやや乱暴に言った。
「行かない! あたしはずっと、ここにいる」
そして双助を斬り込むように睨むとこう続けた。
「それでも連れて行きたいならね、双助くん、あんた――あたし以外全員を連れてきて見せなさいよ!」
やれるもんならね、と結んだ。語尾は荒々しい鼻息を伴った。
花依は悲しそうに顔を歪め、双助を見た。シュリは彼から顔を逸らしていたがその視線の強さは地面に反射し双助にぶつかっている――彼はそう思った。
「――わかりました」
双助は真剣な顔つきでシュリを見つめる。
「絶対、シュリさんを迎えに来ます。十一人で。
絶対、絶対です!」
それでもシュリは無言で、空を噛み殺し、背を向け駆け足で里へ帰っていった。舜も花依も呼び止めたが、シュリは振り返らなかった。
(花依……)
シュリはここに残ることこそ、自分の使命だと思った。花依のいなくなったここで。こここそが、自分のいる世界だと、信じて疑わない。
(……何よ、双助くん……強く言い切っちゃって)
でもどこかで、双助を待とうと決めた自分がいることにシュリは気付いていた。
そんな自分を振り切るため、払い落すため――彼女は疾走しているのであった。