子供達はその玉を飛ばしては笑ったり、玉を追いかけたりしていた。信乃も花依も穏やかにその光景を眺めていた。幸せで、和やかだった。
 双助が、何故華北にいるのかふとしたら忘れてしまいそうな程、平和だった。


「――おれたちは」


 だからこそ、双助は口を開いた。
「あの花依さんと名前が同じ、声も顔もそっくりな花依さんを――
 いえ、花依様を知っているんです」
 自分達が今、こうして一時的に平和でいられるのは、誰かが死に、そして何かが動き出した為であることを心に体に刻みつける為に、双助はあえて口にした。認めるのが嫌だと、もう言ってはいられないのだ。信乃も双助も、とっくの昔に動き出してしまったのだから。
「へえ」
 だから和秦から来たのかと訊いたのねとシュリは合点したのか頷く。
「信乃さんの……許嫁だったんです」
「ええ?」
 それを聞いてシュリは眉唾物を見るように双助を見た。双助はずっと視点を変えずにいた。


「――殺されて、しまったんですけどね」


 もう少し言及しようとしていたらしいシュリの口の動きは、その一言で寸止めされた。
「信乃さんが、ある事情で遠くに出掛けなければならなかったことがあったんです」
 双助は少し顔を伏せる。
 そう遠くない昔。信乃が持つ村雨丸を、本来あるべき所へ返し奉ろうと旅立った。双助も途中まで付いて行き、やがて村へ戻った。
「帰ったら、結婚するつもりだったんです、二人は。――花依様は、ずっと待っていたけれど……」
 静かに、思いだす。村に帰る途中の山で、もう息絶えていた花依と、彼女を、自身の妹を焼き葬った花火に遭遇した。




 ――今のは花依様? 花火さん、何で、どうして!
 ――俺が来た時には、もう死んでいた。
 ――犯人は俺が斬った。今は夏だ。そのままにしておいたら、腐臭がひどい。
 ……人に見つかる前に逃げるんだな。




 花火の手に握られていたのは、まぎれもなく村雨丸だった。信乃が携えているのは偽物の村雨丸で、そのことに気付いたのはその時だった。
 双助は瞬きをして、そして目をつぶる。その後、双助と花火が斬り合い、双助が肩を斬った時、花火の珠が飛び出して――


「でも、花依は花依よ!」
「わあっ!」



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