「さ、この里は部外者の立ち入り禁止」
 シュリが一歩前に詰め寄る。


「さっさと、出て行きなさい!」
「待ってシュリ!」


 シュリがあまりに威圧的だったため、何も言えずにそのまますごすご山へ戻るしかないと思った二人を、花依の声が引き留める。実際はシュリに待ったをかけたのだが。


「あんな手荒な事をしておいて、そのまま追い返しちゃうなんて、いくらなんでも酷過ぎるわ」
「そうは言ってもねえ。和秦からだなんて不審も甚だしいわよ」


 花依は、シュリ達が和秦に盗みを働きに行ったことを知らない。この二人は西園寺家からの報復かもしれないと、密かにシュリは考えていた。そこであったことを、花依に知られたくない。
「シュリ」
 花依が、じっとシュリの吊り目を見つめる。シュリはうっと声を漏らし目を逸らした。しばらく逡巡するように目を泳がせたがやがてわかったわよと口が動く。花依は頬染め自分のことのように喜んだ。
 どうも、シュリは花依には弱いらしいと信乃と双助は思った。


「旅でお疲れでしょう? どうぞ、この里でお休みになってください」
 そして花依は二人に向け笑った。その笑顔もまた、亡くなったあの花依のものだった。二人はここが自分達のいた村で、何事もなくかつての日常が続いていたような――そんな幻の風景を共有してしまう。
 運命も悲しみも残酷も過酷も、何も知らなかったあの頃を、もう一度夢見てしまう。
「あのね、本当だったらあんた達みたいな玄冬団に関係しない人は泊めたりしないんだからね。
 花依に感謝しなさい」
 けれど、その村にいなかったシュリの声で二人は現実に戻された。何も言わず先へ進むシュリの隣に双助は動き、二人の後ろには花依と信乃が続いた。
「どうもありがとうございます」
「お礼なら花依に言いなさい」
「ええ、わかってますが――あの、玄冬団、とは?」
 双助の好奇心が彼をしてこの質問を言わしめた。シュリは明らかに不機嫌そうに顔を歪め、
「関係ないあんた達には、教えないわよ」
 と返した。双助は苦笑し、少し後ろの二人を見た。シュリもちらちら後ろを見つつ進んだ。花依も信乃も、お互いの顔を見ては何か言葉を交わしているようだった。話は長く続かないものの、二人はお互いを意識していないようでは決してなかった。互いの間隔もつかず離れずの絶妙な距離である。


「――ね、あの信乃っていう子」
 シュリは小声で隣の双助に訊いた。
「花依に似てる人でも知ってるの?」


 彼女の質問は当然問いかけられるべきものと、双助が思っていたものだった。今の二人の状況を見て訊かない方がおかしい。それに彼女は花依を非常に大事に想っているようなので、尚更だろう。


「……ちょっと、話せないんです」


 しかし双助は説明をやんわり断った。双助自身も、言葉にしてしまうのが辛かった。もう花依の死から随分経っているのに彼はそれを口に出すことで認めてしまうのにまだ抵抗がある。双助は、少しうつむく。
「ごめんなさい」
「別に。――こっちも訊いて悪かったわ」
 突然の来訪者に、自分達のことを説明しないのは二人とシュリ達に関係がないからであり、逆も然りであった。何を訊いているのだろうとシュリは思い、何故か空しくなった。


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