喜備は次の日、美羽と幹飛に打ち明けた。亮は良家の令息であること、今日が誕生日で、独りでいることを。美羽と幹飛の住む住宅地は彼の屋敷とは反対の方角にあって、大きな屋敷があることは知っていたものの、誰の屋敷かまでは知っていなかったという。だから二人はただ目を丸くした。しかし驚きは一瞬、幹飛はすぐにいつも通りの笑みを浮かべた。任せておけと表情が語る。
「よーし! なら、そのでっかい館から亮を救い出して」
「救い出すなんて、そんなことじゃないよ」
「別に危ないことするわけじゃないって」
 ちっちっちと得意そうに指を振る。
「誕生祝いをしに行くのよ。ボンボンだからこそ、庶民の味を御馳走する。うん悪くない」
「とか言って、本当は豪華フルコースディナーを亮に奢らせるなんてこと企んでないでしょうね」
「……そんなに食い意地はってるように見える?」
「見える。十分見える」
 と、二人の掛け合いもいつも通りだった。美羽にじゃれつく幹飛もあしらう美羽もとにかく相変わらずだ。
喜備には恐怖があった。あんな子供、ほっとけばいいとまた言われるのではないかと。が、しかし――それは杞憂で終わった。こうして、本当に、自然に友達に会いに行くだけ、そんな感じであった。そこには身分も年齢も関係なかった。
「ん? 喜備、それは?」
 美羽が覗き込んだのは見慣れない紙袋だった。
「うん。手編みのキャップ……。包装間に合わなかったから、直接渡すの」
「プレゼント、か」
「喜備友には通過儀礼よね……編み物系はさ」
 嫌ってわけじゃないよ、と慌てて幹飛が訂正するが、それは真実だった。喜備の趣味と特技は、編み物だ。美羽にも幹飛にも、最初の誕生日プレゼントは編み物であった。美羽の誕生日は夏なので、さすがにそれだけでは申し訳なく、別のものも一緒だったが。亮に合うくらいのサイズの帽子は、一晩で編んでしまえた。今日、彼に会えるか。会えたとしても、受け取ってもらえるか――期待と不安を編みこんだその毛糸は、バニラアイスクリームのような色をしていた。

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